二十三時五十九分の受付

大学の出願窓口で、八雲諒は締切翌朝の電話を受けた。

高校生は、前夜二十三時五十九分に送信したのに、画面が「期限切れ」になったと訴えた。出願番号は発行されている。だがステータスは未提出で、規則どおりなら受理できない。

「最後に見た画面を覚えていますか」

生徒は、送信完了の文字が一瞬出たあと、日付が変わってエラーになったと言う。母親が横で、もっと早く出さなかった本人の責任だと謝っていた。

諒は謝罪を受理の可否に置き換えなかった。出願番号があるなら、途中まではサーバーへ届いている。管理画面のタイムスタンプを調べると、書類本体は二十三時五十九分五十八秒に受信され、決済結果だけが零時零分二秒に戻っていた。表示は決済時刻を基準に期限切れと判定している。

諒は未提出のまま再送させず、該当データを保全した。再送すれば、新しい時刻が上書きされ、締切前に届いた証拠が薄くなる。受信時刻を添えて審査担当へ回し、出願枠を仮に確保した。

諒は、生徒に画面の再読み込みや決済の再実行をさせなかった。善意の操作でも、保存された状態が変われば原因調査が難しくなる。通話中に見えている文言をそのまま読んでもらい、出願番号と時刻を記録した。困っている本人に証拠集めを丸投げせず、残っているデータを大学側で確保した。

一時間後、大学は受理を決めた。決済の返答が遅れた四秒を、受験生の遅刻にはしないという判断だった。

生徒は泣きながら礼を言った。

「合格させてもらったみたいです」

「まだ受付です。試験はこれからです」

諒がそう返すと、電話の向こうで母娘が笑った。

通話後、システム担当は判定基準を受信時刻へ変える作業を始めた。諒は記録に、二秒の差を大きな障害と書かなかった。ただ、再現条件を正確に残した。

昼の窓口が開き、問い合わせが一斉に増える。

次の生徒は「提出したはずの推薦書だけ見えない」と言った。

諒は再提出を勧める前に、最初のタイムスタンプを探した。