二枚の起爆片

映画館爆破事件の鑑定書には、起爆装置の写真が一枚しかなかった。

二十年前、三人が死亡し、犯行声明を出した過激派は行方不明のまま。爆発物処理班の霜鳥美邑は、再鑑定報告を提出する直前、原証拠袋の底からもう一枚の金属片を見つけた。写真の破片には手製の半田跡がある。だが袋の中の破片には、警察訓練用雷管の管理刻印が刻まれていた。

立会人の爆発物対策室長・石動貴久が、証拠袋を閉じた。

「混入だ。訓練場と同じ保管庫だった」

「重量記録は二・四グラム。今の破片と一致します。写真の破片は形状から三グラム以上ある」

つまり、鑑定後に中身が入れ替わったのではない。最初から警察用部品があり、写真だけ別物に差し替えられていた。

石動は椅子へ座った。

「爆弾を作ったのは公安の協力者だ。過激派へ潜入させていた。脅すための小規模爆発のはずだった」

「三人死んだ」

「配線を誤った。協力者を逮捕すれば潜入作戦が露見する。公安は偽の破片を撮り、本人を国外へ逃がした」

「あなたが写真を用意した」

石動は否定しなかった。現在、その協力者は別名で警察の対テロ顧問を務めている。彼の情報で防がれた事件も多い。

「報告を出せば、顧問が築いた情報網は全部切れる。次の爆弾は止められないかもしれない」

美邑は二枚を見比べた。偽の写真は、過激派らしい粗雑さを演出している。本物の破片は均一で、端正で、組織が作る嘘のように滑らかだった。

上司からメッセージが届いた。〈写真資料を正とし、現物は混入処理〉。従えば昇任審査へ進める。逆らえば、爆発物処理班の機密を漏らしたとして職を失う。

美邑は鑑定書の添付欄に、写真と現物の三次元計測図を並べた。結論は「同一物ではない」。さらに管理刻印から、当時の払出簿を照会する命令を記した。

石動が証拠袋へ手を伸ばす。

美邑は本物の破片を新しい透明袋へ移し、偽写真を印刷した紙と並べて机の中央に置いた。二つへ同じ証拠番号を振り、自分の封印を跨がせて押した。