二酸化炭素を消す

天羽は椅子の下から白い粒の袋を引き抜き、床いっぱいに広げた。

城崎と万城目は透明壁の向こうで息を止める。三つの密閉箱には同じ空気、同じ容積、同じ十分の制限時間。

《終了時、酸素濃度表示が最も高い一名を勝者とする》

規則はそれだけだった。

城崎は座禅を組み、万城目は胸を押さえて呼吸回数を減らす。酸素を使わなければ数字は下がらない。二人の考えは正しい。ただし、表示される百分率が何で決まるかを一つ見落としていた。

天羽が撒いた袋には《二酸化炭素吸収剤》とある。非常用呼吸装置の交換材として、各箱の椅子下に同じ物が置かれていた。

天羽は普通に呼吸した。吐いた二酸化炭素が白い粒へ吸われるたび、箱の中から気体分子の一部が除かれる。酸素そのものは彼の呼吸で減るが、分母となる全気体量も減るため、酸素の割合は二人ほど下がらない。

残り一分。城崎は十九・八、万城目は十九・七。天羽は二十・四を保っていた。

「酸素を足したのか!」

城崎が叫ぶ。

「何も足してない。邪魔な方を消した」

判定音。

《勝者、天羽》

主催者が告げた数値は、天羽二十・三、城崎十九・六、万城目十九・五。

万城目が壁を叩く。

「使った酸素量なら、そいつが一番多い!」

「でも規則は量を測らない。濃度を表示すると言った」

主催者は、人が酸素という言葉を聞けば、増やすか節約するかしか考えないと思っていた。割合は、酸素以外を減らしても上げられる。

天羽は白い粒を踏まないよう出口へ進む。

白い粒は二酸化炭素を吸うにつれて紫へ変色した。天羽の床だけ色が広がり、作戦が数字の偶然でないことを示している。潜水艦や閉鎖式呼吸器で使う基本的な仕組みを、主催者は非常用品という背景に隠した。見えていたのに、二人は酸素だけを探して見落とした。

酸素計の横には同時に総圧も表示され、天羽の箱だけゆっくり下がっていた。それも割合が上がる理由を示していた。

背後の二箱には、止めていた息が一度に吐き出され、数字がさらに赤く沈んだ。