二重の封印
唐沢弥生警部補は、証拠袋の縫い目を指で追った。
中にある下着は白く、内側の糸も白い。けれど綿貫灯里は病院で、破れた箇所を青い糸で縫ったと三度説明していた。採取時に看護師が撮った確認写真にも、細い青線が写っている。
「別の衣類です」
弥生が言うと、枝元宗矩警務課長は扉を閉めた。
「被害者の記憶違いだ。混乱していた」
「写真があります」
「照明で白が青く見えただけだ」
灯里は、交番勤務の警察官から被害を受けたと訴えている。相手は枝元の甥だった。正式立件を前に、検察へ送る鑑定結果は『被疑者由来のDNA不検出』。その結論を支える証拠品が、今、弥生の机にある。
彼女は封印ラベルを拡大した。病院で貼られた一次封印の上に、警察の二次封印が重ねられている。二次封印の番号を検索すると、半年前の窃盗事件ですでに使用済みだった。複製されたラベルだ。
「保管中の再包装ですか」
「袋が破れた。衛生上の措置だ」
「再包装記録がありません」
「記録漏れだ」
枝元は穏やかな声を崩さなかった。
「身内だから守っていると思うな。証拠がない事件で若い警察官を潰さないだけだ。君が騒げば、灯里さんの名前も供述も法廷の外まで広がる」
被害者を守るという言葉が、被害者を黙らせる道具に使われていた。弥生は返却棚の下段を見た。『病院資材・廃棄』と書かれた箱から、同じ事件番号の封筒が半分のぞいている。
胸部カメラを作動させて封筒を取り出す。病院の一次封印だけが残った袋。その中の衣類には、内側を走る青い縫い糸があった。採取番号も看護師の署名も一致する。鑑定前の受付印だけが押され、公式台帳から消されていた。
「それを戻せ」
「戻す場所は証拠台帳です」
「唐沢。組織に残れなくなるぞ」
弥生は二つの袋をカメラの正面へ並べ、封印番号と発見場所を読み上げた。灯里の供述内容は報告書へ必要最小限しか書かない。すり替えの事実だけなら、被害者をもう一度裸にせず記録できる。
彼女は検察直送の搬送箱へ二袋を収め、封をした。
その上に、自分の職員証を添えた。