二階の窓は閉まらない

二階の窓は、最後まで閉まらなかった。

犬飼麻由が上から押し、塩谷侑が下のレールを蹴り、葛西瑛士がスマートフォンの明かりで歪みを調べる。退去立会いは翌朝。隙間風の原因を残せば、修理代を引かれる。三人は荷造りより長い時間を、その二センチの隙間に使っていた。直せないまま出ることが、自分たちの四年間まで雑だったと認めるようで嫌だった。

「これ、瑛士が網戸ごと外した夏からだよ」

麻由が言う。

「屋上で流星群見るため」

「屋上へ出る階段あったでしょ」

「鍵かかってた」

侑が笑う。

「三人とも不法侵入の共犯」

三年前の夜、窓から庇へ出て、隣家の屋根越しに流星を待った。一つも見えず、夜明けに麻由が「卒業したら南の島で働く」と言った。侑は「雪の町でパン屋を開く」、瑛士は「東京で映像を撮る」と続けた。

「本当に島、行くんだな」

侑が言う。

麻由は沖縄のダイビングショップに就職する。

「侑こそ、長野の店で修業」

「店じゃなくて工場。冷凍パンのライン」

「パンはパン」

「慰めるな」

瑛士は東京へ行かない。映像制作会社を七社受けて全て落ち、四月から県の刑務所で刑務官になる。

「一番、予想外は瑛士」

麻由が言った。

「親が喜んだ」

「瑛士は?」

「制服、撮る側より着る側になっただけ」

三人は窓枠へ体重をかけた。金属が鳴り、あと二センチで止まる。

侑が工具箱から銀色のテープを出した。

「これで塞ぐ?」

「原状回復って、そういう意味じゃない」

「じゃあ窓ごと置いてく」

「もともと家の物だよ」

笑いながら、三人は隙間をテープで覆った。見た目は悪いが風は止まった。立会いで怒られたら、修理代を三等分することにした。

夜が明け、麻由は空港、侑は長距離バス、瑛士は採用先の健康診断へ向かった。窓辺には、誰も持っていかなかった工具箱だけが残る。

昼前、日差しでテープが少し剥がれた。細い隙間から風が入り、壁に貼った三年前の流星群の案内を揺らす。行けなかった場所と、行くはずではなかった場所が、紙の上で同じ音を立てていた。