人形に心はないという試験

時計塔衛兵の採用試験で、ドーマの相棒は自動人形イニカだった。

銀色の顔、胸のぜんまい、言葉は三つしか話せない。塔主は「壊れても同型機を支給する」と説明し、彼女を守る必要はないと念を押した。

「試験の目的は、お前自身が耐えることだ」

「募集要項には『仲間を守る』とあります」

イニカは不安になると、胸の小箱で短い子守歌を鳴らす。今も、同じ八小節を繰り返していた。ドーマはその前で手袋を直し、攻撃人形へ向き直る。

前年の時計塔火災で、イニカは避難命令を受けていなかった。それでも煙の廊下を往復し、子守歌を鳴らして迷った子供たちを出口へ導いた。公式記録は『誘導機能の偶発作動』と処理したが、最後に救われたドーマは知っている。彼女は止まれという命令に逆らった。

ほかの候補者は自動人形のぜんまいを止め、重い胴体を物陰へ転がした。壊れなければよいという考えだ。ドーマはイニカの胸蓋を閉め、ぜんまいを最後まで巻く。『歌は止めなくていい』。彼女は三つしかない言葉の一つで、『いっしょ』と答えた。

第一段階は歯車砲。鉄片の嵐が爆煙とともに円陣を削り、壁の時計をすべて止めた。塔主は得意げに停止時刻を記録し、ふと顔を上げる。

子守歌だけが、止まっていない。

一拍も遅れず、音程も揺れず、煙の中から九周目が始まった。

煙が晴れる。ドーマは手袋を引いた同じ姿勢で立ち、イニカは背後で胸のぜんまいを回していた。飛んだ鉄片は二人の周囲へ円形に落ち、どれも刃先が丸く潰れている。

「装甲を隠しているな。なら貫通試験だ」

塔主は禁庫の攻城人形を起動した。腕が巨大な螺旋錐へ変わり、《時塔穿孔》の回転が床を震わせる。安全係が歯車を止めようとしたが、塔主は鍵を折って投げ捨てた。

錐がドーマの掌へ触れる。煙と火花が柱を覆い、金属音が長く続いた。それでも彼は同じ姿勢で、背後の子守歌は一拍も乱れない。

攻城人形は回転数を上げようとした。だが歯車の歯が自分から噛み合うのを拒むように震え、巨大な脚が床を擦る。

命令を受けた人形のほうが、一歩退いた。