人狼は社内チャットにいる

月曜の朝、全社員チャットに情報システム部から投稿があった。

〈社内に人狼が一匹入り込みました。発見した方は通報してください〉

営業部の雑談チャンネルが一瞬で騒がしくなった。

〈人狼って内部不正者?〉

〈機密を外へ流す社員かも〉

〈先週、競合へ転職した人がいた〉

〈退職済みなら社内にいない〉

〈そう思わせて遠隔操作してる?〉

部長が書き込む。

〈落ち着いて。怪しい行動を共有しよう〉

すると、普段ほとんど発言しない経理担当が「了解」のスタンプだけを押した。

〈短すぎる〉

〈正体を隠す人狼の発言量〉

〈でも急に長文を書いたら、それも怪しい〉

〈詰んでる〉

別の社員が昼休みに弁当を二つ買ったことも議題になった。

〈仲間の分?〉

〈人狼が二匹いる可能性〉

〈一匹と書いてあった〉

〈情報システム部が狼側なら嘘かも〉

〈通報先そのものが罠〉

会話は、誰が狼かではなく、誰が最も自然に人間らしく振る舞っているかへ進んだ。

〈総務の返信が速すぎる〉

〈待ち構えていた〉

〈開発の返信が遅い〉

〈証拠を消していた〉

〈社長が既読だけ〉

〈最上位役職なので追放できない〉

午後、営業部は独自に投票を始めた。

最多票は、スタンプ一個しか押していない経理担当。

部長が本人へ個別メッセージを送る。

〈率直に聞く。あなたは人狼ですか〉

〈月末処理中です〉

〈月を強調した〉

〈偶然です〉

〈満月との関係は〉

〈仕事してください〉

そこへ情報システム部が追加投稿した。

〈まだ通報がありません。今朝、訓練用アカウント「WOLF」が送った添付ファイルを見つけ、メッセージ右上の通報ボタンを押してください〉

全員が朝の投稿履歴を遡った。

雑談チャンネルに、犬の写真を装ったファイル〈wolf_photo.zip〉が一つある。投稿者は灰色の自動ボットだった。

経理担当が初めて長文を書いた。

〈私は人狼ではありません。また、弁当は夕食分です。月末処理を妨害した営業部には、経費精算の差し戻しを行います〉

その日、社内で最も恐れられたのは人狼ではなく、経理だった。