仏間の赤い鞠

祖母の家の仏間には、色の褪せた赤い鞠があった。

祖母は、きょうだい喧嘩が始まると鞠を床へ置き、

「この子が先に悪い人を知ってる」

と笑った。

祖母の死後、二人のきょうだいは家を売るか残すかで揉めた。

姉は売って費用を分けたい。

弟は思い出の家を守りたい。

声が大きくなったとき、仏壇の前の鞠が一人で転がり、姉の足へ当たった。

赤い鞠は、口論の中で、自分が先に相手を傷つけたと気づいている人の方へ転がった。

「私が悪いって?」

姉は鞠を弟へ投げ返した。

鞠は床を一周し、また姉へ戻った。

姉は、弟が無職だから金を出せないと言ったばかりだった。

実際、弟は祖母の介護で仕事を減らしていた。

姉は知っていたのに、いちばん痛いところを選んだ。

「言いすぎた」

姉が認めると、鞠は止まった。

弟が得意そうに笑い、

「最初から分かればいい」

と言った。

すると鞠は弟の足へ転がった。

弟は、姉が介護を任せきりにしたと責め続けていた。

だが姉は毎月費用を送り、子どもの病気を抱えながら何度も日帰りで来ていた。

自分の苦労だけを家に残った証拠として使っていた。

「俺も、言い方が卑怯だった」

鞠は仏壇の前へ戻った。

話し合いが再開すると、鞠は何度も転がった。

姉へ。

弟へ。

一度は、同席した叔父の足へ当たり、二人は声を上げて笑った。

叔父は祖母の遺言を自分に都合よく説明していた。

謝るたび、意見が一致するわけではない。

家を残したい弟と、売りたい姉の考えは変わらなかった。

ただ、相手を傷つける言葉で勝とうとするたび、赤い鞠が足元へ来る。

結局、家は町へ貸し、子どもの居場所として使うことになった。

維持費の一部は姉が負担し、弟が管理を手伝う。

完全に平等でも、理想どおりでもない。

二人が続けられる程度の折り合いだった。

開所の日、子どもたちが仏間で赤い鞠を見つけた。

投げ合いが始まり、すぐ喧嘩になった。

鞠は床を転がり、一人の足へ止まった。

姉と弟は顔を見合わせた。

説明はしなかった。

「その鞠、よく見てるからね」

とだけ言った。

祖母の家には、謝る人を決める裁判官はいない。

ただ、自分でも分かっている最初の一歩を、赤い鞠がそっと足元へ返してくる。