仕立て屋は神獣の毛玉をほどく

王女の婚礼へ白狼が乱入し、大広間は悲鳴に包まれた。

白狼の首には茨と金の鈴が絡み、歩くたびじゃらじゃら鳴る。王女は「祝いを妬む凶兆だ」と泣き、近衛兵は弓を向けた。

仕立て屋のリュシーは、裾直しのため壇上にいた。婚礼衣装を縫ったのは彼女なのに、功績は工房主の名で発表され、式が終われば裏口から帰されるはずだった。彼女には凶兆より、白狼の首元にできた巨大な毛玉が気になった。

茨の棘へ金糸が絡み、その上から鈴の紐が締まっている。鈴には王女の紋が刻まれており、神獣を婚礼の飾りにしようと追い回した跡まで泥に残っていた。動くほど毛が引かれ、皮膚まで赤い。

「その飾り、誰かが無理につけたのね」

白狼が唸る。鈴が鳴り、さらに顔をしかめた。

リュシーは裁ち鋏を床へ置き、代わりに小さな糸切り鋏を見せた。

「毛は切らない。絡んだ紐だけ切るから」

王女が叫ぶ。

「その金鈴は私の婚礼飾りよ! 傷つけないで!」

白狼の痛みより飾りを心配する声に、リュシーの迷いは消えた。

最初の金糸を切る。次に鈴の紐。茨は棘の向きを見て一本ずつ抜いた。白狼は途中で何度も身を震わせたが、彼女が「あと三つ」「あと一つ」と数えるたび、じっと耐えた。最後には自分から首を低くし、鋏を持つ彼女の手へ頬を寄せた。

最後の茨が外れると、固まっていた白毛がふわりと広がった。

リュシーは櫛へ少しだけ椿油をつけ、毛先から梳く。大きな毛玉が雪雲のようにほどけ、白狼の首元は婚礼衣装のどの襟飾りより立派になった。

王女は鈴を拾い集めながら言う。

「手入れが済んだなら、その獣を私の玉座の横へつなぎなさい」

白狼は返事の代わりに、王女の金鈴を前足でまとめて壇下へ押しやった。そしてリュシーの指へ鼻を触れる。糸巻き形の銀印が手の甲に現れた。続いて婚礼衣装の裾へ、小さく《仕立て・リュシー》の銀文字が浮かび、工房主が真っ青になる。

リュシーが笑って床へ座ると、白狼は梳き終えたばかりの首を膝へ預けた。ほどけた白毛は雲を何枚も重ねたように柔らかく、衣装箱より重い頭が沈むたび、膝の上でやさしい熱がふくらんだ。