仮面の外の顔

鷲津原蒼士は、香月野史歩の番号を押した。

名取川絵里と舟木谷瑛斗が息を呑む。四人は顔全体を覆う仮面をつけられ、番号だけで呼ばれていた。

規則は一つ。

〈このラウンド中、参加者全員が素顔を見た一人を犠牲者として選べ。正しく一人を選べば、残る参加者を解放する〉

互いの素顔は見えない。仮面を外せば即座に首輪が作動する。主催者は、誰も条件を満たせず、最後に全員が処刑される絶望を撮るつもりだった。

史歩だけは落ち着いていた。「答えはない」と繰り返し、争う三人を面白そうに眺めている。

蒼士は開始映像を思い出した。四人の仮面内モニターへ同時配信され、視聴確認の青い印までついた映像だ。誰一人、見ていないとは言い逃れできない。規則が表示される直前、スタッフがカメラの前を横切った。わずか一秒。透明なフェイスシールドを上げ、こちらへ振り返った女性。その顔が史歩と同じだった。

髪は今と違う色だが、左眉の上にある三角形の傷は隠せない。

「全員、開始映像を同じ画面で見た。そこにあなたの素顔が映っていた」

史歩の声が低くなる。

「似た人でしょう」

蒼士は映像の静止ボタンを押した。主催者は削除しようとしたが、各仮面の内側には説明確認用のキャッシュが残っている。四つの小画面に、同じ女性の顔が止まった。

顔認証枠が史歩へ重なる。

〈一致率九九・四パーセント〉

絵里が呟く。

「あなた、スタッフなの?」

史歩は参加者を煽る役として混ぜられた演者だった。開始直前まで運営側におり、撮影画角を横切ったのだ。

『映像内の顔は、直接見たことになりません』

「規則は肉眼で直接とは言っていない。見るために用意した映像でしょう」

〈全参加者の視聴履歴を確認〉

〈対象、香月野史歩〉

三人の首輪が外れ、史歩の仮面だけが赤く締まる。

蒼士は出口へ向かう。

「答えがないと信じさせる役だったんだろう。でも、最初から答えとして顔を見せていた」

主催者が切り忘れた一秒が、四人分の視線となって史歩へ返った。