休日を売った画家

小野瀬未景は、画材代のため未来の休日を売った。最初は日曜を十回。契約した週になると、土曜の夜に眠り、次に目を開けるのは月曜の朝だった。身体は休んでいるが、日曜という時間だけが口座へ回収され、買い手へ渡る。

十回分で個展を開けた。評判が上がると、未景はさらに百回、五百回と売った。平日は描き、土曜は営業し、月曜にはまた描いた。美術誌は彼女の勤勉さを称えた。

だが絵から、午後の光が消えた。窓辺で何もしない人、洗濯物が揺れる空、昼寝から起きた猫。そうした場面を描こうとしても、色が薄くなった。未景には日曜の感覚が残っていなかった。休む人間を、怠けている形でしか描けない。

ある展覧会で、少女が尋ねた。

「この人、どうしてベンチで泣いてるの?」

未景は、休んでいる人物を描いたつもりだった。けれど画面の男は、確かに置き去りにされた顔をしていた。

彼女は休日市場へ買い戻しを申請した。売った日曜は投資商品として転売され、価格が上がっていた。一日買い戻すだけで、代表作一枚と寿命八か月が必要だった。未景は迷い、最も高く評価された絵を差し出した。

戻ってきた日曜、彼女は朝から何もしなかった。焦って掃除を始め、途中でやめた。公園へ行き、缶の紅茶を飲み、知らない犬を眺めた。午後、部屋の床に光が伸び、埃がゆっくり舞った。未景は筆を持たず、その光が消えるまで座っていた。

月曜から新しい絵を描いた。売られた日曜を取り戻すことはできない。だが一日を使わずに過ごした記憶が、色の間に余白をつくった。

完成したのは、何も置かれていない部屋の絵だった。題名は《休日》。以前ほど高く売れなかった。未景は売らず、自宅の壁に掛けた。

それから未景は、作品を一枚売るごとに日曜を一日買い戻した。相場は高く、年に一度が精いっぱいだった。その日は描かないと決めた。描かない日があることで、描く日の色が戻った。市場は休日を商品にしたが、何もしない意味までは所有できなかった。