低い椅子の作戦会議

地図師アデルの席だけ、少し低かった。

背が低い彼女は、軍議用の高い椅子では足が床につかず、長時間座ると腰が痛む。

騎士団長ユリウスは、そのことを一度見ただけで家具職人へ椅子を作らせた。足台ではなく、座面そのものが低い。足台を蹴ってしまうのが嫌だと話したのも覚えている。

「座りやすいか」

「はい」

彼は短く頷く。参謀には一切の慰めを口にせず、間違った報告をした者を即座に退室させる団長が、アデルの膝の角度だけは確認した。

今日の軍議では、敵に包囲された町を見捨てる案が出た。

「橋を落とせば、敵軍は三日足止めできます」と将軍が言う。「町の住民も渡れませんが、戦略上は必要です」

アデルは地図を指す。

「北の古道を開けば避難できます。半日、騎士団の進軍が遅れますが」

「地図師は戦略へ口を出すな」

「この案には署名できません」

将軍は彼女の机を叩いた。

「団長命令なら署名するだろう」

ユリウスは橋の爆破命令書を取り上げた。

「署名しない」

「団長まで?」

「住民を残す案には、私も署名しない」

将軍は王都からの期限を持ち出した。ユリウスはアデルへ向く。

「古道を開くのに必要な兵は」

「百人と工兵二十人。私が先導します」

「先導したいか」

アデルは少し考える。

「地図だけ渡します。現地は怖いので行きたくありません」

「分かった」

将軍が呆れる。

「案を出した本人すら行かぬのですか」

ユリウスはアデルの低い椅子の前へ立ち、代わりに答えなかった。

「案と身体は別だ」

アデルが地図を畳もうとすると、ユリウスは手を出さず、留め紐だけ机の左へ寄せた。右肩を痛めている彼女が左手で扱いやすい位置まで覚えている。その静かな世話のあとで、決定は覆らなかった。

彼は北道開通へ決裁印を押した。

「橋の爆破は中止。アデルは王都に残る。署名しないことも、現地へ行かないことも、命令違反として扱うな」