低い椅子の御前会議
農政官ユフィの席だけ、御前会議の前夜に低い椅子へ替えられた。
高い椅子では足が床につかず、長時間座ると腰を痛める。以前一度、会議後に壁へ手をついたのを皇帝ネブラントが覚えていた。
「足台より、この高さが楽だと言ったな」
「覚えておられたのですか」
「必要なことだ」
他の大臣には冷たい指示しか与えない皇帝が、彼女の背もたれの角度まで確かめる。
会議の議題は、大旱魃への増税だった。宰相は農民へ追加徴収し、その成果をユフィの名で発表する案を出した。
「若い女性官が説明すれば、民も受け入れやすい」
ユフィは資料を閉じた。
「私は説明しません。この増税には反対です」
大臣たちが息を呑む。
「陛下の決裁案だぞ」と宰相が言う。
ネブラントが低く訂正した。
「余は検討を命じた。決裁はしていない」
ユフィは代案を示した。皇室の狩猟予算を止め、貴族領の備蓄を買い上げる案だ。
宰相は鼻で笑う。
「現実を知らぬ理想論です。陛下、彼女を説得してください」
皇帝は資料を読み終え、ユフィへ尋ねた。
「この名で発表してよいか」
「採用されるなら、自分で説明します。ただし『皇帝の慈悲』ではなく、農民が納めた税の返還と書いてください」
「分かった」
宰相が立ち上がる。
「皇室予算を一官僚の希望で削るのですか!」
「彼女の希望ではない。計算だ」
ネブラントは増税案を破棄し、狩猟予算停止へ国璽を押した。
さらに会見用に用意されていた「皇帝へ感謝する農村の娘」という肩書きを消す。
「ユフィは飾りではなく農政官だ」
皇帝は低い椅子に座る彼女と同じ高さまで会議卓を下げさせ、全員へ告げた。
ユフィの代案には不確かな数字も一つあった。ネブラントはそこだけ厳しく問い直したが、声を奪って自分の案へ戻すことはしない。
「再計算に半日ください」
「会議を止める」
大臣たちが予定を訴えても、皇帝は待った。特別扱いとは無条件に褒めることではなく、彼女が自分の結論へたどり着く時間を、権力で守ることだった。
「彼女が拒否した政策を、彼女の顔で正当化するな。発表する内容も呼び名も、ユフィ本人の承認を得よ」