何でも食べる鞄と餌ビスケット
冒険者バシュは、菓子店〈丸かじり〉へ大きな鞄を蹴り込み、自分も転がるように入ってきた。
「こいつを満腹にしてくれ!」
迷宮で拾った収納鞄は、入れた物を無限にしまえるはずだった。ところが昨日から勝手に口を開き、食料、剣、依頼書、ついには報酬の金貨まで飲み込んだ。捨てようとしても足へ噛みつく。腹の部分はまだ「足りない」と鳴いていた。
話している間にも鞄は床を這い、陳列棚へ狙いを定めた。バシュが紐を引くと、今度は彼の袖を半分呑み込む。迷宮で命を救ってくれた道具だけに、切り裂くこともできない。役立つはずの宝に振り回され、報酬まで失った彼の財布には、もう宿代一晩分しか残っていなかった。
店主コレットが近づくと、鞄は留め金を牙のように開いた。
「空腹鞄ですね。普通の食べ物を与えるほど容量が広がります」
「じゃあ、どうする」
コレットは拳ほどの黒いビスケットを一枚、火ばさみで持ってきた。表面に〈最後〉の一文字が焼き印されている。
「満腹餌ビスケット。食べた物を百倍に感じさせます。ただし一枚だけです」
バシュが投げると、鞄は跳び上がって呑み込んだ。
一秒、静かになった。
次の瞬間、鞄全体が風船のように膨らみ、留め金からげっぷをした。まず干し肉、次に剣、丸めた依頼書、靴下、金貨袋が順番に飛び出す。バシュは頭に鍋をかぶりながら、両腕で品物を受け止めた。
最後に鞄は小さくしゃっくりし、床へぺたりと伏せた。腹の文字は〈満腹〉へ変わっている。
「戻った! 全部ある!」
バシュは金貨袋を確かめ、最初の一枚を代金として置いた。さらに二枚を重ねる。
「同じビスケットを十枚くれ。仲間の鞄も最近、俺の弁当を狙う目をしてる」
「一日一枚までですよ」
「俺より聞き分けがいいから大丈夫だ」
鞄を背負うと、留め金は満足そうにあくびをした。バシュは取り戻した剣を掲げて店を出る。
コレットが床に散った靴下を火ばさみでつまんだ瞬間、ちりん、とドアベルが鳴った。