何もしてないの答え
日曜の午後五時半、大庭つぐみのスマートフォンに、母からメッセージが届いた。
〈今日は何してたの?〉
質問のあとに、笑っている犬のスタンプがついている。詮索ではなく、いつもの会話だった。それなのに、つぐみは返信欄を開いたまま指を止めた。
今日は十時に起きてクリーニング店へ行き、昼には台所を片づける予定だった。実際には十一時すぎに一度水を飲み、もう一度布団へ入り、次に目を開けたのは四時四十八分だった。クリーニング店の受付は終わり、流しには金曜のマグカップが残っている。
〈買い物してた〉と打つ。消す。
〈部屋の片づけ〉と打つ。これも消す。
母に褒められるような一日に直したいわけではない。ただ「寝てた」と送ると、自分で自分の休日へ零点をつけるようで嫌だった。
つぐみは食パンを一枚焼いた。冷蔵庫の卵を落とすつもりだったが、フライパンを出すのが面倒で、苺ジャムだけ塗った。ジャムの瓶の縁には、前に使った跡が固まっている。
トーストを皿へ置き、スマートフォンで写真を撮る。斜めから撮れば、遅い朝食にも、おしゃれな軽食にも見えた。けれど送る前に写真を消した。
〈ほとんど寝てた。今、トースト食べるところ〉
それだけ送る。既読はついたが、返事はまだ来なかった。つぐみは次の言い訳を用意せず、パンをかじった。
何もしていない、と答えると、自分まで何もなかったように聞こえる。けれど眠って、起きて、腹が減って、パンを焼いた。説明すれば、その程度のことは残っている。
画面の上には、母が文字を入力している印が一度だけ現れ、すぐ消えた。つぐみは何が返るかを想像しないように、皿のパン屑を指で集めた。励まされても注意されても、眠った一日は変わらない。返事によって許可をもらう前に、自分の言葉を撤回しないことにした。
トーストの端は少し焦げていた。つぐみはそこを隠すようにジャムを足さず、苦いまま噛んだ。今日の説明も同じくらい飾らなくてよかった。
母からの返事を待たず、ジャムの蓋を閉めた。今日は立派な報告がない。それを隠さずに送れたことで、夕方の会話はもう十分だった。