倒れる塔はもう瓦礫です

王都撤去組合の瓦礫運びレムキスは、建物が壊れた後にしか呼ばれなかった。

焼けた梁、割れた石、崩れた煙突。危険な仕事でも、建てた者には名が残り、片づけた者には粉塵だけが残る。建築魔術師は彼を「失敗の残骸を食う虫」と呼んだ。

技能も後始末専用とされていた。

【先行撤去:崩壊が確定した構造物を、崩れる前に指定廃棄場へ運ぶ。撤去中は元の形を保つ】

「崩れる前に確定などできるものか」

王立建築長は説明を鼻で笑い、塔の亀裂を報告したレムキスを現場から追い出した。

翌日の戴冠式、王都中央の千尺塔が傾いた。

新王の威光を示すため、建築長が基礎石を抜いて金の大階段へ作り替えたせいだった。塔の真下には広場があり、式典へ集められた市民と孤児院の子どもが逃げ惑う。結界師は上層だけを支えたが、根元から割れた塔は一分も保たない。

建築長は「まだ立っている。崩壊は確定していない」と叫んだ。責任を認めれば爵位を失うからだ。

レムキスは塔の基礎へ手を置いた。石の中では亀裂が輪になり、最後の一本の鉄柱まで千切れている。未来を占う必要はない。瓦礫になる条件は、すべてそろっていた。

「片づけは、落ちてからでは遅い」

彼が指定した廃棄場は、城外の旧採石場。誰もいない巨大な穴だった。

技能を一度使うと、塔の輪郭へ白い荷縄が巻きついた。塔は傾いた形のまま地面から抜け、広場の人々の頭上を越える。石一つ、窓硝子一枚さえ落ちない。千尺の建物が、積み上げられた瓦礫一件として空を滑った。

旧採石場へ着いた瞬間だけ、技能の保持が解けた。

塔は穴の中へ真っすぐ崩れ、地上には粉塵も飛ばなかった。広場には塔が隠していた地下室の入口が露出し、そこから抜かれた基礎石と横流しされた資材台帳が見つかった。

建築長の署名は、最初の頁にあった。

救われた子どもたちは、粉塵一つ付かなかった式服のままレムキスを囲んだ。新王は建築長の爵位章を外し、崩壊を隠した報告書ごと撤去組合へ渡す。広場の再建責任者として最初に指名されたのは、塔を建てた者ではなかった。

《職業が【瓦礫運び】から【崩壊撤去王】へ書き換わりました》