先生が引いた最後の番号
三十九人のクラスで、席替えのくじは四十枚あった。
先生が作るとき数を間違えたのだ。
全員が引き終わり、箱の底に一枚残った。番号は四十。座席表には存在しない。
「記念に先生が引けば」
誰かが言い、教室が盛り上がった。
担任は困った顔をしながら、最後の紙を開いた。
「四十番。校庭」
冗談でそう言った。
僕らは笑ったが、窓際の後ろに座る子だけは笑わなかった。
彼女は来週、転校する。席替えに参加する意味はないと言っていたのに、先生に勧められてくじを引いた。番号は一番。教卓の真正面だった。
「最後くらい好きな席にしてあげれば」
誰かが言った。
彼女は首を振った。
「くじでいい」
机を運び、教卓の前に座った。これまで目立たない窓際ばかり選んでいた彼女が、全員から見える場所にいるのは不思議だった。
その一週間、彼女は先生によく当てられた。答えを間違え、教室が笑うと、彼女も笑った。給食では前を通る全員に話しかけられた。休み時間、教卓に提出物を置きに来る人が立ち止まった。
「前の席、忙しい」
放課後、彼女が言った。
「交換する?」
僕の席は窓際の後ろだった。
「しない。今まで後ろで、みんなの顔あまり見てなかったから」
最終登校日、先生は四十番のくじを黒板に貼った。
「今日は四十番の席でホームルームをする」
僕らは机を全部後ろへ下げ、窓際に空間を作った。先生も生徒も床に座った。彼女は真ん中にいた。
一人ずつ、転校する彼女に一言ずつ話した。大げさな送別会は嫌だと言っていたので、内容はくだらないものばかりだった。借りたペンを返していない。体育で同じチームになりたかった。次の町の給食を調べてほしい。
僕は何を言うか決められず、順番が来ると、四十番の紙を指した。
「その席、空けとく」
教室に存在しない席なら、誰にも取られないと思った。
彼女は笑い、先生から紙をもらった。
「持っていっていい?」
「席ごと?」
「番号だけ」
転校後、クラスの人数は三十八になった。次の席替えではくじも三十八枚だった。
それでも窓際の床に、ときどき一人分の空間ができた。誰かがそこへ座ると、「四十番だ」と呼ばれた。
存在しない席は、教室のどこにでも作れた。