処刑人は三度振り下ろさない
処刑人ハルヴァンには、同じ罪人へ三度刃を振り下ろさないという掟がある。
一度目で首を落とすのが技量。
二度目は道具の不備。
三度目は、処刑人の敗北だ。
ハルヴァンは二十七年で、一度しか二度目を振ったことがない。その夜は眠れなかった。罪人を苦しませる下手な処刑人になるくらいなら、自分の職を捨てると決めている。
その朝、台へ連れてこられたのは仕立屋ティルナだった。軍服三百着の納期を守れず、前線を混乱させた罪だという。実際には、将軍が冬布を横流しし、薄布しか渡さなかった。
ティルナは薄布を三枚重ね、百二十着だけ完成させた。その服を受け取った兵は凍傷を免れたが、残りの納期遅延だけが裁判で読まれた。
「首を前へ」
ハルヴァンが言うと、ティルナは断頭台へ頬を置いた。針仕事で荒れた指が、台の縁を軽く握る。
「縫い直しなら、二度まで無料にしていました」
「これは縫い物ではない」
「ええ。だから三度目は、請求してください」
見物の兵が笑った。
ハルヴァンは笑わない。斧を上げ、いつもどおり呼吸の切れ目へ落とした。
硬い音がした。
斧は首筋から跳ね、刃先が床へ刺さった。
ティルナは頬を台につけたまま、目だけを彼へ向ける。血は一滴もない。
ハルヴァンは刃を抜き、親指で確かめた。朝、自分で研いだ刃が、石を叩いたように潰れている。
監察官オディオンが怒鳴った。
彼の外套だけは、横流しされた上等な冬布で仕立てられていた。ティルナの目が襟の縫い目へ向くと、監察官は反射的に胸元を隠した。
「手加減したな!」
「していない」
「ならば家宝の斧を使え。反逆者用だ」
運ばれた銀黒の斧は、ハルヴァンの父も祖父も使ったものだった。魔力を流せば重量が十倍になり、竜の首さえ断ったと伝わる。
彼はティルナの背後へ立つ。
「二度目だ」
「糸は同じところへ通すと、布が裂けますよ」
「黙れ」
斧へ魔力を満たす。処刑台の脚が重みに耐えかねて沈んだ。
振り下ろす。
轟音とともに台が割れ、灰色の埃が二人を隠した。観客のどよめきが遠く聞こえる。
ハルヴァンの手には、首を断った感触がなかった。
代わりに、山へ斧を打ち込み、山のほうから拒まれたような衝撃が残っていた。
埃が引く。
ティルナは割れた台の上で、同じ向きに頬をつけている。
「三度目は?」
彼女が尋ねた。
ハルヴァンは答えず、家宝の斧を見た。
刀身は柄との境から裂け、音もなく二つに砕けた。