出口の違う改札

十八時二十分。森下信吾は東京駅の八重洲中央口で、雨谷里佳を待っていた。二人が決めた待ち合わせ場所は、ただ「中央改札」だった。仙台行きの発車まで十分。財布には、二人で行った水族館の半券がある。イルカの絵を半分ずつ切り、残りを里佳が持っていた。初めて二人で出かけた日、閉館時刻を間違えて十分しか見られなかった。それでも半券を分けたのは、次は一日かけて来ようという約束の代わりだった。

同じ時刻、里佳は反対側の丸の内中央口で信吾を待っていた。神戸支社への転勤で、彼女も今夜の列車に乗る。手にはイルカの尾だけが描かれた半券。

〈着いた。時計の下〉

二人が送った文面は同じだった。けれど夕方の通信障害で、どちらの画面にも送信中の輪が回り続ける。

十八時二十三分。信吾は電話をかけた。呼び出し音の前に切れた。里佳もかけ、同じように切れた。

一週間前、信吾は「転勤、断れなかった」と伝えた。里佳は「私も」とだけ返した。彼は、それを別れへの同意だと思った。里佳は、信吾が自分を引き止めない答えだと思った。

十八時二十五分。信吾は半券の裏に書いた〈一緒に来てほしい〉を、指で何度もなぞる。会えたら渡すつもりだった。

里佳の半券の裏には、〈神戸を断って仙台へ行く〉とある。彼が待っているなら、今夜その場で人事へ連絡するつもりだった。

十八時二十七分。構内放送が、それぞれの最終案内を流す。

信吾は〈来ないなら、これで終わりにする〉と送った。里佳は〈来ないなら、神戸へ行く〉と送った。どちらも送信中のまま止まった。

十八時二十九分。信吾は八重洲側の新幹線改札を通る。里佳は丸の内側から在来線ホームへ下りる。二人の距離は、最も近い瞬間で八十六メートルだった。

列車の扉が閉まってから、通信が戻った。互いのメッセージが同時に届き、位置共有の地図に、さっきまで向かい合うような二つの点が現れた。

信吾は窓の外を見た。反対方向のホームから、里佳を乗せた列車も動き出す。

彼は半券を送信済みの画面に重ね、共有していた位置情報を解除した。二本の列車は、出口の違う同じ駅から東と西へ離れていった。