十三号寝台の風
砂漠を横断する夜行列車〈流星〉が、四時間停車しない区間へ入って一時間後、十三号寝台に小包が届いた。乗客が洗面所から戻ると、鎖を掛けたままの扉の内側、卓上に箱が置かれていた。窓は固定式で、箱には車内金庫から消えた宝石の首飾りが入っていた。
疑われたのは車掌の尾上、整備士の芦田、隣室の小説家・村瀬。尾上は検札中、芦田は最後尾の機械室、村瀬は廊下で原稿を読んでいた。三人とも首飾りの持ち主と面識があり、匿名便として返せば盗難の追及を避けられる。十三号室の乗客は、洗面所へ出る前に卓を空にし、戻った直後に非常ベルを押している。箱を見落としていた可能性はなかった。
鉄道公安の赤松が示した手掛かりは三つだった。箱の一角には、九ミリ四方の格子が押しつけられた跡がある。上面だけに、天井換気管の内部で生じる黒い炭素粉が積もっている。そして外された十三号寝台の換気扇用ヒューズが、芦田の工具巻きの空き溝から見つかった。
尾上は合鍵で入れるが、扉の鎖までは外から戻せない。村瀬は隣室との壁を叩き、厚い鋼板に穴はないと訴えた。芦田は走行中の振動でヒューズが抜けたのだと言ったが、ヒューズはねじ込み式で、工具なしには外れない。尾上は換気管が途中で細くなると主張したものの、それは旅客車の図面であり、十三号室だけは旧型機械室と同じ太い管を使っていた。
赤松は卓の真上にある換気格子を外した。管は隣室ではなく、廊下天井を通って最後尾の機械室まで続いている。小包は薄く、格子を斜めにすれば通る幅だった。換気扇を止め、管へ押し込めば、列車の前進で生じる気流が十三号室まで運ぶ。
「格子跡は出口でつかえた痕、炭素粉は換気管を通った痕、外されたヒューズは送風を止めた者を示します。芦田さんは機械室から箱を管へ入れ、再び工具巻きへ戻るまで列車の振動に運ばせた。停車駅も廊下も必要ありません。列車が外界から荷物を受け取ったのではなく、車内の風が、最後尾から十三号室へ配達したのです。ヒューズを外したのは箱が羽根に砕かれないようにするためで、到着後に戻す時間がなかった。停車しない四時間は犯人を閉じ込めたのではなく、管の入口と出口を同じ列車内に保つ条件でした」