午前三時の見えない星座
玲奈は、星を探すためのアプリを入れた。
スマートフォンを空へ向ければ、建物に隠れていても雲の向こうでも、星座の線が画面に浮かぶ。説明にはそう書かれていた。
午前三時、玲奈はベランダへ出た。
空は町の照明で薄い灰色だった。室外機の羽根が回り、隣のビルの看板が消えたり点いたりする。肉眼で見えるのは月の端と、飛行機の赤い灯りくらいだった。
画面を空へ向ける。
そこには青い線で結ばれた星がいくつも現れた。実際には見えない星まで、名前と距離つきで整然と並んでいる。
玲奈は一つずつ読んだ。
知らない名前。
知らない距離。
知っている形に結ばれた、見えない点。
今日、学生時代の友人から結婚の知らせが届いた。画面には笑顔の二人と、整った部屋と、「やっと報告できます」の文字。玲奈は祝福を返したあと、自分の現在だけが線の外へ外れた気がしていた。
向かいのマンションで、一室の照明が消えた。
少しして、その上の階も消える。さらに右の部屋も暗くなる。眠る人の順番に窓が黒くなり、空の灰色がほんの少しだけ濃くなった。
最後まで残った窓に、人影が一度立った。
影はベランダの鉢を室内へ入れ、カーテンを閉める。照明が消える。
誰かの一日が、静かに終わっただけだった。
玲奈はアプリを閉じた。
星座の線がなくなると、空には相変わらず星が見えない。けれど、見えないものを全部つないで形にしなくてもいいと思った。
飛行機の赤い灯りが、一定の速さで横切っていく。
向かいの暗い窓を線で結べば、いくつも形が作れそうだった。玲奈は一つも結ばなかった。消灯の時刻も、眠る理由も、それぞれ違うままで並んでいる。自分の窓だけに物語の答えがないわけではないと、ようやく少し思えた。
玲奈はその一点だけを、名前を調べずに見送った。
部屋へ戻り、友人の写真をもう一度は開かなかった。スマートフォンを充電器へ置き、明かりを消す。自分の窓も、向かいから見れば順番に暗くなる一つなのだと思うと、眠ることが小さな作業に戻った。