半分だけ閉じたカーテン

プリムラは強い光が苦手だった。

魔力熱の後遺症で、晴れた日の窓辺に立つと目の奥が焼けるように痛む。顔をしかめれば「陰気な娘」と言われるため、いつも黙って耐えてきた。

ヘクター公爵の通訳官になった初日、彼女は会議室のカーテンを半分だけ閉じた。

「国賓を暗い部屋へ通す気か」

侍従長に叱られ、すぐ開け直した。ところが次の会議では、窓の上半分に薄布が張られていた。机には眩しさを抑える灰色の紙まで敷かれている。

「公爵閣下のご指示です」

プリムラは驚いた。彼に不調を訴えたことはない。ただ、日差しが強いときだけ左目を長く閉じる癖を、見られていたらしい。

ヘクターは誰に対しても冷酷だった。誤訳した外交官をその場で解任し、隣国王子の脅しにも「帰れ」と一言返した男である。

和平会議当日、隣国の代表団はカーテンに難色を示した。

「顔の見えぬ通訳は信用できない。すべて開けよ」

侍従が布へ手を伸ばす。

「触るな」

ヘクターの声が飛んだ。

「しかし、先方の要望です」

「彼女の目より優先する要望ではない」

代表団長が机を叩いた。

「では通訳を替えろ。女一人の都合で国事を止めるのか」

プリムラは立ち上がった。

「私が我慢します。開けてください」

ヘクターは命じなかった。彼女の前へ、遮光布と退席許可証の二つを置く。

「続けたいか」

国の和平がかかっている。断れるはずがない。そう思ったのに、許可証には公爵自身の署名があり、理由の欄は空白だった。説明さえ求めないつもりだ。

「私が辞めれば、交渉が遅れます」

「遅らせる」

「戦端が開くかもしれません」

「君を犠牲にして結ぶ和平なら、最初から破綻している」

代表団長が嘲笑した。

「公爵は通訳官に国の決定を委ねるのか」

「自分の身体についての決定だけだ」

ヘクターは窓辺から離れ、プリムラが選べるよう道を空けた。

彼女は遮光布を取り、目元へ巻いた。

「このまま通訳します。カーテンも半分閉じて」

ヘクターは代表団へ冷たく告げた。

「条件は決まった。彼女の光量で会議を再開する。異論がある者は、和平より眩しさを選んだと記録しろ」