収穫祭の小さな椅子
倉橋朱里は、市民農園を借りてまだ半年だった。
周りは十年以上畑を続ける人ばかりで、朱里の人参は細く、南瓜は一つしか実らなかった。
秋の収穫祭に「自分の野菜を一品持ち寄る」と聞き、参加を迷った。
畑の物置には、古い木箱が積まれていた。
朱里はその板で小さな椅子を作ることにした。料理が足りないなら、座る場所を一つ増やせばよいと思ったのだ。
板を切り、釘を打つ。脚の一本が短く、座るとがたついた。
隣の区画の老人が、南瓜の蔓を片づけながら言った。
「土の上なら、少しくらい埋まる」
椅子を畑へ置くと、本当に傾きは気にならなくなった。
収穫祭の日、長い卓には、里芋の煮物、茄子の揚げ浸し、枝豆、漬物が並んだ。
朱里は自分の小さな南瓜をスープにした。量が足りず、牛乳と玉葱を多めに入れた。
「南瓜より玉葱の方が多いかも」
「名前は秋のスープでいい」
老人が紙コップへ注いだ。
椅子は、最初に三歳の子どもが使った。
次に足を休めたい女性が座り、最後は鍋の蓋を置く台になった。
朱里が想像した使い方とは違ったが、ずっと誰かのそばにあった。
昼すぎ、雨が少し降った。
皆でテントの下へ寄り、温かなスープを飲んだ。南瓜は少なくても、甘さはちゃんと残っている。胡椒の香りが湯気に混じり、冷えた指が紙コップで温まった。
「来年は大きい南瓜を作ります」
朱里が言うと、老人は首を振った。
「来年は、椅子をもう一脚頼む」
「野菜じゃなく?」
「座る人が増えたから」
祭りのあと、朱里は椅子を自分の区画へ戻した。
土で脚が少し汚れ、座面にはスープの丸い染みがついている。
夕日が畑の枯れた蔓を照らし、遠くで誰かが鍬を洗っていた。
紙コップの縁には黄色い筋が残り、雨の匂いに混じって甘く香った。
朱里は椅子へ腰を下ろし、残ったスープを一口飲んだ。
上手に育たなかった野菜も、短い脚の椅子も、誰かと使えば役目を持つ。
土と南瓜と濡れた木の匂いの中で、自分の小さな区画が、初めて町の畑の一部になった気がした。