名を呼ばない葬送歌

葬唱士リエノは、出発前に全員の名札を裏返した。

「縁起でもない真似をするな」

光剣士バスクは自分の名札を戻し、リエノの仮寄与率2%を笑った。討伐対象は墓都の名喰い王。死者を操ると聞いていたが、光剣があれば亡霊など消せるという。

墓都へ入ると、王は石棺の上で討伐隊の名を読み上げた。

バスクの背後に、彼と同じ顔をした死者が立つ。名を呼ばれた者の影から、墓都に眠る同名の死者を引き出す術だった。

リエノは低い葬送歌を歌い始めた。

歌詞に名前はない。「帰る者」「眠る者」「忘れられた者」とだけ呼びかける。裏返された名札が淡く光り、隊員の名を外から見えなくした。

名喰い王が叫んでも、誰の影からも死者は出ない。

自分で名札を戻したバスクの周囲だけ、亡霊が増え続けた。彼は光剣を振るうが、斬るたび別の同名者が現れる。

リエノは歌いながら近づき、彼の名札を裏返した。

名を失った亡霊たちは立ち止まる。誰に呼ばれ、誰を襲うのか分からなくなったのだ。リエノが歌の最後で「眠る者」と呼ぶと、全員が石棺へ戻った。

力の源を失った名喰い王は、ただの痩せた亡骸になる。討伐隊の刃がそれを砕いた。

帰還後、バスクは光剣が亡霊を浄化したと報告し、名札を裏返した行為を命令違反として記した。

戦果盤は墓都で呼ばれた名前と亡霊の発生を照合する。表向きの名が隠れた瞬間、召喚はすべて止まっていた。リエノの歌が始まってから、光剣が消した亡霊はどれも再出現していない。

受付官が名札を返す。バスクの札から役職名が消え、リエノの裏返しの札へ新しい文字が刻まれた。

彼女はそれをまだ表にせず、胸へ留めた。

墓都から帰った者たちは、功績を叫ぶ代わりにリエノの無名の歌を口ずさんだ。名を誇るほど敵に握られる戦場がある。バスクの光剣から隊長の銘板が外され、文字のない彼女の名札へ指揮章だけが留められた。

誰の名も呼ばない歌だけが、全員を正しく帰還させたと皆が知っていた。

【再算定完了】

【リエノ・討伐寄与率:2% → 97%】

【隊内順位:最下位 → 首位】

【役職更新:葬唱士 → 霊名封鎖長】