四人席の予約
天城野侑莉亜が指定された店へ行くと、四人席に三人だけが座っていた。
夫の白波瀬郁也と、交際相手の美作森千佐。空いた一席には、離婚届と財産分与案が置かれている。
郁也は腕を組んだ。
「侑莉亜には子どももいないし、家事以外の取り柄もない。揉めずに署名したほうが得だよ」
千佐は笑顔で契約書を滑らせた。
「証拠もないのに慰謝料なんて言ったら、逆に名誉毀損になりますよ」
侑莉亜は空席を見た。
「四人で予約したのは、そちらでしょう?」
郁也は、会社の研修担当が来る予定だったと答えた。二人は同じ会社に勤め、地方研修の責任者と講師だった。
そのとき、四人目が着席した。
会社のコンプライアンス室長だった。
郁也と千佐の顔が固まる。
室長はタブレットを開いた。二人は研修期間中、受講者を早く帰し、会社所有の保養所を二人だけで使っていた。入退室記録、寝室前の廊下映像、社用車GPS、虚偽の講義報告。さらに保養所の管理端末には、侑莉亜を嘲る会話まで残っていた。
『妻は何もできない。離婚書類も俺たちで作れば、そのまま判を押す』
千佐は私生活を盗み聞きしたと抗議した。
室長は首を振る。
「会社施設の管理記録です。取得も保全も会社が行いました」
侑莉亜の弁護士からも封筒が届く。探偵業者の報告、ホテル記録、メッセージの原本。二人が作った財産分与案には、郁也が会社の住宅補助を自分の資産と偽った箇所まであった。
室長は懲戒解雇通知を一通ずつ渡した。不正経費と保養所の無断使用料も請求するという。
続いて侑莉亜は、不貞慰謝料と調査費用の請求書を置いた。
郁也の両親からは、実家と家業への出入りを断つ書面。千佐の両親からも、娘へ帰宅を認めないという連絡が届いていた。
郁也は離婚届を指さした。
「署名だけはしてくれるんだろう」
「もちろん。私の条件でね」
侑莉亜は正式な離婚協議書へ署名した。郁也と千佐の支払義務、郁也の退去期限、財産保全条項が並んでいる。
四人目の室長が解雇通知へ受領時刻を書き込んだ瞬間、二人が侑莉亜を追い詰めるために取った四人席は、二人の仕事と家族を同時に失う処分席になった。