四発目の心臓

投石機の腕が折れ、石弾が城内へ転がった。

技師マルゼクは機台の中央にある空洞へ手を差し込んだ。そこには動力となる歯車がない。代わりに、人間の心臓を一房ずつ石の歯車へ変えて撃つ古い仕掛けがある。

一発撃つたび、心臓の部屋が一つ機械になる。人の心臓には四つしか部屋がない。

「一発目」

胸の左上が硬くなった。投石機の腕が跳ね、石弾が敵の攻城塔を砕く。脈はまだ打つが、音の半分に石の噛み合う響きが混じった。

「二発目」

敵の術師が立つ櫓を潰す。胸の右側が冷え、息を吸うたび歯車が一目ずつ回る。

弟子のユナリが止め具へしがみついた。

「三発撃ったら、戻れなくなります」

「二発では門が残らない」

三発目。破城槌を押す列の中央へ着弾し、人馬が散った。マルゼクの心臓は四分の三が石になった。血は細い隙間を無理に通り、唇が紫になる。

敵軍は退かなかった。丘の上に巨大な火球が作られている。落ちれば城塞の半分が焼ける。

投石機に残る石弾は一つ。狙いを上げるには、術者の鼓動そのものを照準に使う。四発目を撃てば、心臓は完全な歯車となる。

「人ではなくなります」とユナリが泣いた。

「人のまま焼かれるより、役に立つ機械が一台残る」

マルゼクは照準輪を胸へ当てた。

「四発目」

心臓の最後の柔らかな部屋が固まり、かちりと音を立てる。

投石機が放った石弾は夜空を裂き、丘の火球へ突き刺さった。赤い光が外側へ爆ぜ、城壁の手前で消える。敵陣から退却の角笛が上がった。

マルゼクは倒れなかった。

胸の中で四枚の石歯車が回り続け、血を正確に押し出している。鼓動はなく、一呼吸ごとに規則正しい刻み音がした。

ユナリが抱きつく。師の身体は温かい。だが胸へ耳を当てると、人の脈ではなく投石機の巻き上げ音が聞こえた。

「怖くないんですか」

マルゼクは答えようとした。

恐怖も安堵も、心臓の柔らかな部屋に宿っていたらしい。何も感じない。

彼は無表情で次の石弾を探した。包囲は終わったのに、胸の歯車だけが、五発目を撃つ準備を始めていた。