四門同時、足踏み一つ
「迷宮牛は四門同時開放が必須」
「ソロだと一つ踏んだ瞬間、ほかが閉じる」
「水城紗良、中央で足踏みして何になる?」
水城紗良は円形のボス部屋へ入ると、四方の扉を順に見た。
東西南北にある石門には、それぞれ一人分の踏み板。四枚が同時に沈んだ時だけ、迷宮牛ミノタウロスの無敵障壁が消える。過去の攻略では四人が板を踏み、残る者が核を攻撃した。単独では移動時間だけで判定が切れる。
紗良の職は《地盤鑑定士》。火力欄は空白だが、踏んだ石の内部を音で読む。その地味な配信を見ていた者だけが、彼女が入口から一度も無駄に足を置いていないことに気づいていた。
紗良は床へしゃがみ、指先で細い溝をなぞった。
四枚の踏み板から伸びた溝は、中央の円へ集まっている。装飾と思われていたが、彼女には力を運ぶ古い導管に見えた。
「中央に隠し板?」
「いや、板じゃない。振動路だ」
「でも四方向へ同じ強さを送るなんて――」
迷宮牛が突進を始める。四門の奥では、これまで踏み板役に固定されて報酬を減らされた探索者たちの名前が、応援コメントとして流れていた。紗良はその一つ一つを読まず、中央へ届く振動だけを受け取る。
巨大な角が石床を削り、配信画面が上下に跳ねた。紗良は中央の円から動かない。右足を少し上げ、息を吐き、牛が導管の交点へ入る瞬間を待つ。
一度だけ、踵を落とした。
《分岐震脚》。
小さな衝撃が中央から四本に分かれ、溝を走る。
東西南北の踏み板が、見えない四人に踏まれたように同時に沈んだ。四門が開き、迷宮牛を包む無敵障壁が消える。
だが、それだけではない。
導管を走った衝撃は四門の奥で反射し、再び中央へ戻った。四方向から同時に受けた振動が、突進中の牛の胸で一点に重なる。外から傷をつけるのではなく、体内の核だけが震え、透明な音を立てて砕けた。
ミノタウロスは紗良へ届く一歩前で止まり、そのまま膝をつく。
「四人分の踏圧を一発で分配!」
「戻り波まで計算して核を内部破壊した」
「移動ゼロ、攻撃動作一回」
「足踏みで五人用ギミック終わらせたぞ」
紗良は靴底についた石粉を払った。
公式攻略人数の推奨表示が《五人》から《一人※再現困難》へ変わった。