売られた指定席
決勝戦の開場直前、千二百席のバーコードが重複していると判明した。ゲート前には一万人が並び、雨まで降り始めていた。子どもたちは濡れた旗を抱えていた。試合開始の時刻だけは変えられない。
スポンサー招待席を、鴻上剛士が転売業者へ流していたのだ。剛士は筆頭スポンサー社長の息子で、クラブの事業部に籍を置いていた。仕事は昼の重役席でコーヒーを飲み、夜は選手用ラウンジで写真を撮ることだった。
「十文字さん、適当に立見席へ振って」
「同じ席を買った人が三人ずついます」
「うちの父が金を出してるんだよ。客よりスポンサーが上」
私は入場を十五分遅らせ、購入履歴を一件ずつ照合した。入口では、同じ座席券を持つ親子と高齢のファンが言い争いになりかけていた。誰も悪くない。私は拡声器で事情を説明し、空いている年間席を開放し、転売分は正規購入者を優先した。選手たちも家族席を返してくれた。
剛士が転売業者へ渡したのは、車椅子席や少年チームの招待席まで含まれていた。スタッフは通路へ臨時案内板を出し、一人も帰さず席へ通した。
試合開始には間に合った。
ハーフタイム、剛士は貴賓室で笑っていた。
「混乱を収めたのは俺って発表して。スポンサーへの配慮だから」
そこへクラブ会長とリーグ監査官が入った。転売代金の振込先は剛士の会社で、父親のスポンサー企業が損失補填までしていた。監査結果を受け、スポンサー契約は即時解除。父親はクラブ理事を辞任した。
剛士は顔を赤くした。
「契約を切ったらユニフォーム代も払えないぞ」
会長は窓の外を示した。大型スクリーンに、新しいメインスポンサーのロゴが映っていた。救済出資の条件は、チケット運営を十文字結へ任せ、鴻上親子をクラブから排除することだった。
「鴻上剛士を横領および信用毀損により懲戒解雇。十文字さんを事業部長に任命する」
スタジアムが得点で揺れた。
歓声の下、スクリーンの運営責任者欄から剛士の名が消え、私の名前へ切り替わった。