夕焼け当番
「机の落書き、全部消すまで帰れません」
担任はそう言い残し、早坂紅葉と鶴見凌成を教室へ置いていった。
昼休み、黒板消しを扇風機に当てた犯人は別にいる。二人は笑った罪で連帯責任になった。
「人権侵害だ」と凌成。
「笑い声が一番大きかったの鶴見」
「早坂は動画撮ってた」
「証拠保全」
夕日が差す中、二人は洗剤と雑巾で机を磨いた。新しい落書きを消すと、その下から古い字が出る。さらにこすると、もっと古い絵が現れた。
「遺跡発掘みたい」
紅葉が言う。
「第一地層、英単語」
「第二地層、相合傘」
「第三地層、先生の悪口」
「これは保存対象」
作業は進まない。落書きを見つけるたび、誰が書いたか推理し、勝手な解説札をつけた。紅葉は付箋を貼り、凌成は鑑定額まで書いた。担任に見つかれば罰が増える、放課後限定の展示会だった。二人とも反省はしていなかった。
最後の机は、洗剤をかけると文字が浮き上がった。油分の違いで、普段は見えなかったらしい。
――早坂と鶴見、絶対そのうち付き合う。
二人とも同時に黙った。
「誰だよ」
「字、担任っぽくない?」
「先生が生徒の机に予言書くか」
「未来から来た私たちかも」
「外れてるって伝えといて」
「何で私が未来担当」
凌成は強くこすったが、予言はなかなか消えない。紅葉も反対側から手伝う。雑巾越しに指が触れ、二人とも大げさに離れた。
「ほら、こういうの見られるから書かれる」
「今、誰もいない」
「机が見てる」
窓の外では運動部が片づけを始めていた。教室は橙色から薄紫へ変わる。予言は最後に「付き合う」の「う」だけ残った。
「しぶとい」と紅葉。
「消さなくていいんじゃない」
「何で」
「『う』だけなら意味ないし」
紅葉は凌成の横顔を見た。耳が赤いのは夕焼けのせいにできる。
「じゃあ保存対象」
「解説札は?」
紅葉は付箋に書いて、机の裏へ貼った。
――第三地層。未確定。
二人は笑い、今度は誰にも罰せられなかった。教室を出る頃には、机だけが未来を知っている顔をしていた。