大津波を水と呪いに分ける
海より高い黒い津波が、港町へ迫っていた。
宮廷魔術師は防壁を張ったが、波に触れた瞬間、魔力ごと飲み込まれる。構成鑑定士テオラは避難船の積荷確認しか任されていなかった。
【構成鑑定:対象を成り立たせる要素ごとに分けて表示する】
「波の中身を数えて何になる」
魔術師長が吐き捨てる。だが普通の海水なら、防壁を食うはずがない。
テオラは防波堤へ登り、津波全体を鑑定した。
構成は海水九十九、水死者の呪い一。
たった一割にも満たない呪いが、水の一滴一滴を怨念で結び、巨大な一体の怪物にしていた。
魔術師長は叫ぶ。
「分かったところで、分離術など誰にも使えん!」
テオラは説明文を思い返す。
要素を「分けて表示する」。これまで彼女は、文字の一覧として分かれるのだと思っていた。だが表示とは、世界に違いを示すことでもある。
「海水と呪いは、別のものです」
彼女は両手を波へ向け、鑑定結果を現実へ突きつけた。
黒い津波に一本の白線が走る。
線は無数に枝分かれし、透明な水と黒い霧を引き離した。結びつきを失った海水はただの雨となって港へ降り、黒い霧だけが空中で小さな塊になる。
神官たちの浄化光が、今度はそれを容易く焼いた。
町を呑むはずだった波は、乾いた貯水池を満たし、畑へ恵みの水を残した。魔術師長の巨大防壁は不要だった。
「鑑定が、物を分けるだと……」
「最初から、そう書いてありました」
雨となった海水には、呪いが奪っていた魚や小舟まで無傷で混じっていた。港の人々は降ってきた舟を受け止め、行方不明だった漁師たちを救い出す。魔術師長は功績を自分の防壁によるものと報告しようとしたが、虹の各色に鑑定記録が映り、町中へ真相が見えた。彼の報告書だけが濡れて崩れ、テオラの名は消えなかった。
救われた老漁師は、波を恐れる孫へ、海と呪いは同じものではないとテオラの言葉を伝えた。
雨上がりの虹がテオラの頭上に架かり、職業欄を七色に分解してから一つの名へ組み直した。
【職業:構成鑑定士 → 万象構成分離師】