天眼梟の羽根は一画だけ直す
魔法学院の公開試験で、落第生キリクに与えられた課題は上級召喚陣だった。
「魔力量十二。成功基準は千だ」
試験官の教授が、観客席へ聞こえる声で笑う。だがキリクには、大量の魔力など必要なかった。
前夜、学院裏山のボス《天眼梟》を倒し、限定ドロップ《正答の羽根》を得ている。彼の《欠陥指定ドロップ》は、目の前の術式に一つでも誤りがあれば、それを直す品を必ず落とす。
羽根が直せるのは、ただ一画。どこを直すか選び損ねれば、二度目はない。だからキリクは魔力の代わりに、学院中の古代文字を一字ずつ写して覚えてきた。
キリクは召喚陣を見下ろし、すぐに杖を置いた。
「この陣は完成させてはいけません」
「できない言い訳か。続けろ」
教授が強制起動の石を踏む。床の線が紫に燃え、観客席の結界が内側から砕けた。現れたのは試験用の小鬼ではなく、校舎ほど巨大な深淵獣。教授が陣の一字をすり替え、キリクの失敗に見せかけて事故を起こすつもりだったのだ。
教師たちの攻撃は、開いた門から無限に流れ込む闇へ吸われる。
キリクは逃げず、正答の羽根を取った。
必要なのは獣を倒す力ではない。呼び出した命令を、帰す命令へ変えること。
陣の中心にある古代文字《来》へ、短い横線を一本加える。
《還》。
羽根が触れた瞬間、紫の光が反転した。
深淵獣の巨体が門へ引かれる。爪を立てても、尾を振っても、召喚陣そのものが出口となって正確に送り返す。最後の角が消えると門は縫い閉じられ、割れた観客席の結界まで元へ戻った。
静まり返った会場で、学院長が陣を調べる。
「誤字は起動前からあった。書いた者の魔力紋も残っている」
線の下から、教授の紋章が赤く浮かんだ。
教授は逃げようとしたが、戻った結界が今度は彼だけを閉じ込める。
学院長はキリクの零点答案を破り、白紙の合格証を差し出した。
「何点が妥当だと思う」
キリクは羽根を机へ置く。
「一画で十分です。満点より、間違いを見抜ける魔術師になります」
羽根が光へほどけ、試験盤の得点欄を最後に書き換えた。
【天眼梟限定SSR《正答の羽根》――深淵級術式の一画修正、世界初成功】