妹をかばう無回避試験

防衛学院の実地試験で、ハイゼクは妹コマリと同じ円へ入った。

二人一組で攻撃を避け、標的役を守る試験だ。だがハイゼクの敏捷値は最低、回避技能の成績は零。試験官デルモンは、補欠入学の兄妹を落とす好機だと笑った。

「妹を守りたければ、せめて盾くらい持て」

ハイゼクは盾を取らず、コマリの前で片腕を広げた。

最初の攻撃は練習用の石弾。胸へ飛んだ三発は彼の左右へ分かれ、背後の壁へ当たった。ハイゼクの靴は円の中央から動いていない。

デルモンは採点鏡の故障だと言い、攻撃役へ上級術を許可した。

「円全体を吹き飛ばせ。避けなければ妹も失格だ」

放たれた《暴嵐球》は、試験場の空気を刃へ変える。外へ飛び出す以外に助かる方法はない。

コマリが兄の服を握る。ハイゼクは振り返らず、「目を閉じなくていい」とだけ言った。

嵐と煙が二人を呑み、床の目印が次々に剥がれた。

煙が晴れる。

ハイゼクは片腕を広げた同じ姿勢で立っていた。コマリもその後ろで、目を開けたまま兄の背中を見ている。二人の円だけが白線ごと残り、風の刃はすべて外側へ曲がっていた。

観覧していた生徒の一人が、入学以来の訓練を思い返した。ハイゼクは自分だけならいつも攻撃線の中央に立ち、倒れた者が出ると真っ先に背を向けて運んだ。零だったのは守った回数ではない。学院が『自分だけ避けた回数』しか採点してこなかったからだ。コマリは兄の背中で、小さく合格と呟いた。観覧席から同じ言葉が広がり、やがて学院長まで立ち上がった。試験官が失格を宣言しようとしても、合格条件の「標的を無傷で守る」は誰より完全に満たされていた。

デルモンが異常に気づいたのは、兄だけでなく妹への攻撃判定まで一件も成立していないことだった。

「お前の技能は自己回避ではないのか」

「家族を置いて避けるくらいなら、最初から動きません」

ハイゼクの〈絶対回避〉は、彼が守ると決めた者を同じ座標として扱う。

採点鏡が二人分の防御力を算出しようと明滅し、ついに数値欄を消した。

【防御値:測定不能】