季節の境界線
衣替えの移行期間、教室は二つの季節に分かれた。
窓側は日当たりがよく、夏服が多い。廊下側は冷え、ブレザーが並ぶ。
私と親友は、初めて違う制服を選んだ。
私は半袖。親友は冬服のまま。
「暑くない?」
「まだ脱ぎたくない」
理由は聞かなかった。
私たちは進路でも違う選択をしていた。私は上京。親友は地元に残る。願書の話をするたび、どちらかが正しいような言い方になり、最近は避けていた。
昼休み、窓を開けると風が入った。
親友はブレザーの袖を引き下げた。
「東京、暑そう」
「こっちも暑いよ」
「そうじゃなくて」
言葉が止まった。
制服の季節が違うだけで、机一つ分の距離が遠く感じた。
放課後、急な雨が降った。
私は半袖で震え、親友は平気な顔をしていた。
「ほら」
ブレザーの片側を広げ、肩へかけてくれた。
二人で一着に入ると、紺色の布の下で季節が混ざった。
「残るの、怖い」
親友が言った。
「みんな出ていって、自分だけ変わらない気がする」
私は初めて知った。親友は地元が好きで残るのだと思っていた。
「出るのも怖い」
「行きたいんでしょ」
「行きたいのと、怖くないのは別」
雨の向こうで、夏服の生徒が走り、冬服の生徒が傘を差していた。
同じ六月でも、選ぶ服は違う。
「いつ脱ぐの」
私が聞くと、親友はブレザーの襟をつまんだ。
「暑くなったら」
「もう暑い」
「自分で決める」
「うん」
翌週、親友は夏服で来た。
特別な宣言はなかった。私は「似合う」とだけ言った。
進路は変わらなかった。
私たちは違う場所へ行く。
でも、同じ日に同じ速度で変わらなくても、隣を歩けると分かった。
衣替えの境界線は、季節を分ける線ではなかった。
互いの準備が整うまで、少し待てる幅だった。
卒業の日、私はコート、親友は薄手の上着だった。最後まで季節の感じ方は違った。それでも駅まで並んで歩き、別れる場所だけを自分たちで決めた。
同じ季節にいることと、同じ道を選ぶことは違う。その違いを怖がらずに話せるまで、私たちは少しずつ大人になった。