宝箱に隠れた昼休み

雨上がりの机に、弁当一個ぶんだけ乾いた四角が残っていた。

時代劇のロケ中、空は急に暗くなり、スタッフは衣装と機材を守るため走り回った。撮影所の休憩テントへ戻ると、藤崎桃子の赤い弁当袋だけがない。

衣装部に入って二年目の桃子は、今日初めて子役一人を任されていた。嶺岸は台詞を間違えるより、借りた着物を汚すことを怖がっている。桃子は朝から何度も「衣装は直せるから」と言ったが、緊張した肩は下がらなかった。

近くにいたのは、衣装助手の笹岡、主演の茅野、子役の嶺岸。笹岡は着物を運び、茅野はメイク車へ避難した。嶺岸は「知らない」と言いながら、両手を背中に隠している。

弁当を置いた机には、雨に濡れていない四角い跡が残っていた。地面には子役衣装の銀色の飾りが一つ。大道具の宝箱は、蓋が指一本ぶん開いている。

袋を食べ物目当てで持ち去ったなら、乾いた跡は残らない。雨が落ち始める前に、誰かが真っ先に避難させたのだ。

桃子が宝箱を開けると、金貨の小道具の間に赤い袋があった。中身は無事で、布の上に小さな紙が載っている。クレヨンで、傘を差した弁当箱が描かれていた。

嶺岸がとうとう口を開いた。

「桃子さん、自分の上着で私の着物を隠したから」

雨が降り出したとき、桃子は子役の絹の衣装に自分のパーカーを掛け、そのまま機材へ走った。

「お弁当には上着がないから、宝箱に入れたの」

勝手に大道具へ触れると叱られる。だから言えなかったらしい。宝箱なら雨も入らず、悪い侍にも見つからないと、台本の設定まで考えて選んだという。

茅野が笑いをこらえ、笹岡は銀色の飾りを衣装へ縫い戻した。桃子は弁当を開ける。濡れてはいないが、宝箱の木の匂いが少し移っている。

中には、うさぎ形に切ったりんごが二つあった。桃子は一つを嶺岸へ渡した。

「これは宝を守った人の分」

「桃子さんの分、減るよ」

「守ってくれたから、減ってないのと同じ」

嶺岸は耳の長いほうからかじった。桃子ももう一つを口にする。しゃり、と同時に音がして、嶺岸の肩がやっと少し下がった。

撮影再開の声がかかった。空には、薄い晴れ間が戻っていた。