害虫王を従えた藁人形
初収穫の朝、畑が黒く染まった。
鎧飛蝗の大群が、小麦の穂を端から噛み砕いている。開拓農民セラドが一年かけて耕した畑だ。このままでは冬を越せない。
火を放てば虫は焼けるが、小麦も焼ける。薬を撒けば、来年の土が死ぬ。
「また最初からか」
誰かが呟いた。
セラドは農民職へ就いた日に届いた《初回十連》を思い出した。鍬が出ればいい、と取っておいたものだ。だが今必要なのは、虫だけを畑から退かせる道具だった。
回す。
種袋、軍手、鎌の砥石など九品。最後は、掌ほどの小さな藁人形。
《簡易かかし/畑の中央へ置いてください》
見た目は子どもの工作だ。それでもセラドは、飛蝗を踏まないよう畝を進み、畑の中央へ藁人形を立てた。
小さな藁の腕が、ぎこちなく上がる。
畑を覆っていた飛蝗が一斉に食べるのをやめた。
次いで、すべての虫が藁人形へ向かって頭を下げる。先頭の一匹が羽音を鳴らすと、大群は二列に分かれた。一列は小麦から幼虫を拾い、もう一列は噛み落とした穂を集め、畑の端の籠へ運び始める。
「働いてる……」
村人たちはぽかんとしたが、すぐ自分たちも動いた。傷んだ穂を選り分け、籠を増やし、虫が通る細い道を空ける。昼までに畑はきれいになり、失った小麦は一割にも満たなかった。
仕事を終えた鎧飛蝗は、藁人形の合図で森へ飛び去った。残った数匹は花畑へ移り、受粉を手伝い始める。
セラドは最初の麦束を刈り、藁人形の足元へ供えた。
収穫後、村人は飛蝗を皆殺しにする罠を作ろうとしなかった。畑の外れへ虫が食べてもよい草地を残し、藁人形の前に小さな境界札を立てる。翌朝、鎧飛蝗は札の内側へ一匹も入らず、代わりに害虫の卵だけを運び去った。奪い合うしかなかった畑に、初めて折り合いのつく線が引かれた。
夕食には、傷ついた穂から挽いた粉で薄いパンが焼かれた。セラドは一枚目を自分で取らず、冬を怖がっていた子どもへ渡す。子どもが噛むと、ぱり、と明るい音がした。畑を守った報酬は金貨ではなく、今年の小麦を今年のうちに味わえることだった。
《神話級〈百虫王のかかし〉/命令可能対象:作物へ害をなす生物すべて》