家族会議議事録
【鴨下家・第十二回家族会議議事録】
出席者――宗明、和歌子、征也、都和。
決議――都和は午前六時までに朝食を用意する。実家への帰省は年一回。征也の給与は和歌子が管理し、生活費は都和が負担する。
異議――都和一名。
採決――三対一で可決。
義母の和歌子は、毎週日曜に家族会議を開いた。義父の宗明が議長、夫の征也が書記役を妻へ押しつける。
「決まったことには従えよ」
「家族は民主主義なの」
「三人が賛成しているのに、都和だけわがままを言うな」
都和は言われた通り、一字も漏らさず議事録を書いた。三人は内容を確認し、毎回、末尾へ署名押印した。
【第三十五回】
決議――都和の賞与九十万円を宗明の車購入費へ充当する。
理由――嫁に大金は不要。
異議――都和一名。
採決――三対一で可決。
【第五十一回】
決議――都和が退職を拒んだため、夕食と寝室の使用を一週間停止する。
賛成――宗明、和歌子、征也。
第五十二回の会議には、都和の席に弁護士が座った。
和歌子は眉をつり上げる。
「部外者を家族会議へ入れるなんて、規則違反よ」
都和は五十一冊の議事録を机へ積んだ。
そこには、給与の取り上げ、外出制限、就労妨害、三人で決めた罰、都和の体調不良を無視する決議が、全員の自署とともに残っていた。通帳の送金額とも一致している。
弁護士が新しい議題を読み上げた。
「離婚、財産分与、不当利得返還、共同不法行為による損害賠償。慰謝料一千万円を含む請求総額三千二百万円です」
宗明は議事録を払い落とした。
「家庭内の決め事だ。裁判所が口を出せるか」
「すでに提出しました。皆さんの署名は、都和さんの一方的な日記ではなく、行為を認める証拠になります」
征也が母を見る。
「母さん、議事録を残せと言ったのは母さんだろ」
和歌子は震える手で最後の冊子を開いた。都和が用意した新しいページには、裁判所の決定書が貼られている。
【第五十二回・裁判所決定】
対象――宗明名義の自宅、和歌子名義の預金、征也の給与債権。
決議――仮差押えを認める。
異議――認めない。
都和は末尾の出席欄に、自分の名だけを書かなかった。