巨人用の小さな椅子

「食事中の魔物を椅子に収まる大きさへ縮める? 厨房以外で何になる」

宮廷技能試験で、マセラは無能とされた。

【技能:《お席の大きさ》――魔物がマセラの料理を食べている間だけ、その身体を目の前の椅子へ収まる大きさにする】

皿から口を離せば元へ戻る。力も魔力も失わないため、捕縛には使えない。マセラは国境の食堂へ下がり、旅する小鬼や角兎へ煮込みを出して暮らした。

食堂の裏山には、丘巨人の一家がいた。末子のウルグは毎夕、窓から匂いを嗅いだ。頭だけで店より大きいため入れない。マセラは屋外へ桶いっぱいの豆煮込みを置き、食べる間だけ木の椅子へ座らせた。

小さくなったウルグは、スプーンの持ち方を覚えた。食後に元へ戻ると薪を一抱え置き、壊れた道を直した。

やがて人間と丘巨人の国境争いが始まった。

女帝オルティナは和平を望んだが、巨人王は王宮へ入れず、野外会談では双方の軍が睨み合う。過去三度の交渉は、巨人王が身じろぎしただけで兵が矢を放ち、破談になっていた。

マセラは食堂へ両国を招いた。

巨人王の前には山羊肉の大皿、人間側には同じ鍋から取り分けた小皿を置く。王が一口食べると、天井を越えていた身体が縮み、古い樫椅子へぴたりと収まった。

兵たちは剣へ手をかけた。小さくなっても巨人王の力は変わらない。だが彼は隣のオルティナを襲わず、豆を一粒落として困った顔をした。女帝がそれを拾い、王の皿へ戻す。

会談は初めて、同じ目線で始まった。

巨人王は塩を渡し、人間の宰相はパンを切った。山道の通行、羊の放牧、冬の薪。戦場では奪い合ったものを、食卓の上で半分ずつ分けた。最後の煮込みを飲み終える前に、二人は和平書へ署名した。

王が皿から口を離す。身体は元の山ほどへ戻ったが、樫椅子を壊さぬよう両指でそっと持ち上げた。

試験官が「料理で機嫌を取っただけ」と言う。

オルティナは玉座の隣の椅子を食堂へ運ばせた。

「同じ高さに座れぬ相手へ、同じ条件を求めていた我らのほうが無能だった」

女帝は王宮厨房の金鍵をマセラへ渡す。

「次の国境は地図でなく、おまえの食卓で決めよ」