彼は今夜の更新で死ぬ
ゲーム会社へ入社した旗手原由宇は、会議室の前で開発責任者の声を聞いた。
「彼は今夜の更新で殺す」
シナリオ担当が答える。
「ユーザーには秘密ですね」
「ああ。死体は朝まで残せ。発見した人間が騒ぐほどいい」
由宇はコピー用紙の箱を抱えたまま固まった。
この会社には、皆から「彼」と呼ばれる無口なプログラマーがいる。最近、責任者と大げんかしたという噂も聞いた。
由宇は同期へ相談した。
「今夜、社内で殺人が起きる」
「根拠は?」
「責任者が殺すと言った」
「ゲーム会社では日常語じゃない?」
「死体を朝まで残すとも」
「少し日常から離れたな」
「発見者が騒ぐほどいいって」
「警察へ」
「録音がない」
「では本人を逃がそう」
二人は無口なプログラマーへ近づいた。
「今夜、残業しますか」
「更新があるから」
「朝まで社内に?」
「たぶん」
「死なないでください」
「眠気の話?」
「もっと根本的に」
彼は怪訝そうな顔をした。
さらに開発責任者へ探りを入れる。
「今夜、誰かがいなくなりますか」
「一人な」
「戻ってきます?」
「人気があれば亡霊として」
「死後の展開まで!」
「血の量は控えめにする」
「量の問題ではありません!」
由宇は警備員を呼び、更新作業の始まる午後十一時、会議室へ踏み込んだ。
大型画面には、鎧を着た男性キャラクターが映っている。
責任者がクリックすると、その胸へ矢が刺さった。
「やめてください!」と由宇。
責任者が振り返る。
「何を?」
「彼を殺す計画です」
「この主人公のことだが」
「主人公?」
「オンラインゲームの第二部で退場する。ユーザーへ事前に漏らせないから秘密にしていた」
シナリオ担当が画面を示す。
「死体は街の広場へ朝まで配置します。発見したユーザーが物語を始める仕掛けです」
無口なプログラマーも後ろから現れた。
「僕が大げんかしたのは?」
責任者が答える。
「彼を殺すか生かすかで」
「結局、殺すことになった」
由宇は警備員へ頭を下げた。
更新後、ゲーム内の主人公は予定どおり死んだ。
社内で顔から血の気を失ったのは、由宇だけだった。