忘れ物室の五日

最終バスの発車まで五分というとき、泣いている男の子が案内所へ来た。

片耳の取れた兎のぬいぐるみを、待合所に忘れたという。

母親は「同じ物を買います」と宥めたが、男の子は首を振った。

父親から最後にもらった物なのだと、小さな声で言った。

忘れ物係は、膨大な箱が並ぶ保管室へ入った。

扉を閉めると、外の一分が、中では一日になった。

五日あれば見つかると思った。

一日目、傘を百本調べた。

二日目、帽子と手袋の箱を開けた。

三日目、期限切れの忘れ物を処分する予定表を見つけ、兎が今日の廃棄分に入っている可能性に気づいた。

保管室には、名札のない物ばかりあった。

片方だけの靴、使いかけの編み物、封をしていない弁当箱。

どれも持ち主以外には不要に見える。

忘れ物係は長年、期限が来れば機械的に処分してきた。

そうしなければ部屋が埋まるからだ。

四日目の夜、廃棄袋の底から白い布がのぞいた。

引き出すと兎だった。

耳は片方なく、腹には何度も縫った跡がある。

同じ物を買えるような姿ではなかった。

五日目、忘れ物係は兎のほこりを払い、自分の制服の糸で耳の付け根を整えた。

裁縫は下手で、縫い目が外から丸見えになった。

それでも抱けば、綿の柔らかさは残っていた。

扉を開けると、外では五分が過ぎ、運転手が発車ベルへ手を伸ばしていた。

忘れ物係は走り、バスの扉へ兎を差し込んだ。

男の子は泣きやみ、縫い目を見つけた。

「耳、戻ってない」

「見つからなかった」

「でも、けがは治ってる」

そう言って、兎を強く抱いた。

バスが出たあと、忘れ物係は保管室へ戻った。

五日分疲れているのに、時計は勤務終了を示したばかりだった。

翌日から、廃棄予定の物を一つずつ写真に撮り、町の掲示板へ載せるようにした。

すべては返らない。

部屋を永遠に残すこともできない。

それでも、持ち主にとっての五分を、係の側であと一日だけ延ばすことはできた。

数か月後、男の子から絵葉書が届いた。

兎には、違う色の布で大きな耳が一つ付いていた。

裏には、

「なおしたところが、いちばん好き」

と書かれていた。