怪談ライブの台本を直す幽霊

人気配信者の鳶沢眺は、生放送の怪談ライブ中、台本に見覚えのない一文を見つけた。

〈その話は嘘だ。井戸に落ちたのは女ではなく男だ〉

眺は画面の外にいる構成作家をにらんだ。

「今、台本を直した?」

「触ってない」

音響係も首を振る。

「僕は効果音だけ」

マネージャーが言う。

「井戸のモデルになった村の霊かも」

「配信中に監修へ来る幽霊?」

眺は笑顔を作って読み進めた。

すると次の段落にも文字が増える。

〈赤い着物ではない。青だ〉

コメント欄が沸いた。

〈リアルタイム霊障!〉

〈幽霊が事実確認してる〉

〈訂正が細かい〉

構成作家が青ざめる。

「私の取材ミスを死後に指摘されてる」

音響係はマネージャーを指す。

「宣伝の仕込みでは」

「仕込みなら事前に共有する」

眺は二人を見る。

「誰かが番組をバズらせようとしてる」

マネージャーが返す。

「一番得するのは配信者」

「私が自分の台本に赤入れして驚く演技を?」

「普段より上手です」

「今、褒めてないよね」

さらに文字が現れた。

〈その効果音は犬。狼ではない〉

音響係が立ち上がる。

「幽霊が音源まで批評した!」

構成作家は言う。

「井戸の男が犬を飼っていた?」

マネージャーは眺へ迫る。

「あなた、現地で何を連れて帰ったの」

「土産は饅頭だけ」

「箱の中を確認した?」

「幽霊を菓子箱へ詰めないで」

眺はカメラへ向かって宣言した。

「もし訂正したいなら、姿を現してください」

台本の末尾に、新しい一文。

〈まず共有編集を切れ〉

全員が黙った。

構成作家が画面右上を見る。共同編集者として、取材先の郷土資料館職員がログインしていた。配信を見ながら、史実と違う部分を善意で直接修正していたのだ。

電話すると、職員は言った。

『メールだと間に合わないと思いまして』

眺は配信へ戻った。

「幽霊ではなく、資料館からの遠隔監修でした」

コメント欄に最後の一行が流れた。

〈でも今、眺さんの後ろにいる人は誰?〉

眺は振り返った。

立っていたのは、遅れて来た宅配員だった。

構成作家は配信後、権限設定を〈閲覧のみ〉へ変えた。

怪談ライブで一番怖かったのは、共有設定だった。