成年後見人の封筒

倉橋朔良は、義母の郁江が同じ薬を一日に三度飲もうとしたとき、家族へ受診を勧めた。

義兄の達巳は「年寄りなら普通」、義妹の朋代は「朔良さんが見ていれば済む」と取り合わない。夫の貴文も、母の年金通帳を兄が預かっているから問題ないと言った。朔良が仕事を休んで付き添った日だけは、全員が当然のように受け入れた。

やがて郁江は一人で外へ出て帰れなくなった。

親族会議で、達巳は朔良に同居を命じた。

「母さんの金は俺が管理する。お前は身の回りだけやれ」

通帳からは毎月、郁江が使った覚えのない車のローンと旅行代が落ちていた。朋代は目をそらし、貴文は兄に逆らわなかった。

朔良は介護を引き受ける代わりに、地域包括支援センターへ相談した。

数か月後、家族が集まる日に一通の封筒が届いた。家庭裁判所からの審判書だった。郁江の財産管理と契約を行う成年後見人として、親族ではなく専門職の弁護士が選任されている。

達巳が机を叩く。

「嫁が家の金を他人に渡したのか!」

「お義母さんのお金を、お義母さんのために戻しただけです」

後見人が入室し、通帳、印鑑、保険証の引渡しを求めた。過去の不明出金についても説明と返還を請求する。郁江は見守りのある施設へ移り、費用は本人の年金と資産から適正に支払われる。

朋代が朔良へ言った。

「施設へ入るまでの間だけでも、あなたが泊まってよ」

「相談と保護はしました。介護を引き受けたことはありません」

貴文が初めて焦った顔をした。

「じゃあ、僕たちはどうすればいい」

後見人は三人へ、面会、衣類準備、転居手続きの分担表を配った。朔良の欄はない。

最後に、達巳が握っていた年金通帳を受け取り、封筒へ収める。

「今後、郁江さんの財産と介護契約の窓口は私です。朔良さんへの連絡は不要です」

封が閉じられた瞬間、朔良は倉橋家の介護から正式に外れた。

三人の分担だけが残った。