折れた車輪を結ぶ

大庭望は、階段の踊り場に散らばった本を拾った。大きなキャリーケースの車輪が折れ、開いたファスナーから教科書とノートが滑り出している。

持ち主の女性は、ケースを起こしては倒し、途方に暮れていた。

「駅に預けて、必要なものだけ持てばいいのでは」

「全部必要です」

看護学校を辞めることになり、寮から荷物を引き取った帰りだという。授業はもう受けないのに、解剖学も薬理学も捨てられない。

望は引っ越しのたびに物を減らす。終わった勉強の本を運ぶために終電を逃すなど、理解できなかった。

「使わないものを持つと、次へ行けませんよ」

「捨てたら行ける次なら、まだ行かなくていいです」

女性は本をケースへ戻した。壊れた車輪は斜めにぶら下がっている。望は自分のスニーカーの予備紐を出し、駅の無料地図を細く折った。女性はノートの端を破ろうとしたが、望が止めた。残したいと言ったものを、修理材に使わせるのは筋が違う。地図を車輪の軸へ当て、紐で何重にも巻く。

ケースには教科書だけでなく、実習で使った名札や、何度も書き直した手順表も入っていた。望には紙くずに見えるものも、女性は一枚ずつ折れを伸ばした。望は価値を尋ねず、厚さだけを見てエコバッグへ分けた。

「直りません。引きずらないための固定だけです」

「十分です」

二人で持ち上げようとすると、重さで腕が沈んだ。望は薄い本を半分、自分のエコバッグへ移した。女性は望の仕事用鞄を肩へ掛ける。

「それは軽いです」

「持てることと、持たなくていいことは別でしょう」

聞き覚えのない言葉なのに、言い返せなかった。

二人はケースの左右の取っ手を一つずつ持ち、階段を上がった。三段ごとに合図して置き、紐が緩んでいないか確かめる。望は速く終わらせたかったが、女性は本の角がぶつかるたびに止まった。望もやがて、急ぐより壊さないほうへ掛け声を合わせた。途中で終電の発車音が遠ざかる。女性は本を減らさず、望は物を残す価値を認めないまま、それでも同じ重さを半分ずつ持った。

最上段で手を離すと、二人の掌に同じ幅の赤い線が残っていた。