明日死ぬ亡霊

「死者しか鑑定できない者を、生きた戦場へ連れていく意味はない」

聖騎士団長バルゼンはネリオスを国境軍から追放した。

【死因鑑定:死者または亡霊に限り、死亡した時刻と直接の死因を表示する】

生きた魔物には使えず、死体を調べるころには戦いは終わっている。ネリオスは検屍係にも採られず、砦を出た。

その夜、谷の向こうから白い軍勢が現れた。

千人の亡霊兵。顔は霧に隠れているのに、行軍歌だけは王国軍と同じだった。敵の死霊術だと判断した国王フェルディクは、丘上の《曙光砲》を向けた。太陽の魔力で亡者だけを焼く王国最大の兵器だ。砲手たちは照準を合わせながら、亡霊の隊列に自分たちと同じ欠けた軍旗があることに気づき、声を失った。

だが亡霊たちは、敵国の鎧ではなく王国軍の古い外套を着ていた。

ネリオスは先頭の亡霊へ鑑定を向けた。

――死亡時刻:明日、夜明け。

――死因:曙光砲の反射光。

死んだのは過去ではない。まだ来ていない明日だった。

別の亡霊にも、同じ結果が出る。透けた顔の中には、砦の上で弓を構える若い兵士と同じ顔があった。敵の時術師が、明日死ぬ王国兵の姿を今日へ映しているのだ。

「砲を撃てば、あれが現実になります!」

団長バルゼンはネリオスを押し退ける。

「亡霊の偽言に惑わされるな。発射!」

国王が手を上げたとき、ネリオスは亡霊たちの足元を見た。影だけが谷の奥へ伸び、一枚の銀鏡へ集まっている。曙光砲を亡霊へ撃てば、光は鏡で折れ、翌朝の王国陣地へ返る仕掛けだ。

「陛下、亡霊ではなく、彼らを死者にする未来を撃ってください!」

フェルディクの手が止まった。

砲身が谷奥の銀鏡へ向く。曙光が走り、鏡を貫いた。白い軍勢は悲鳴を上げず、朝霧のように薄れる。砦の兵士たちは、一人も倒れなかった。

最後に消えた亡霊を鑑定すると、表示は『対象は死者ではない』へ変わっていた。

国王は長く息を吐き、ネリオスの追放状を曙光砲の火口へ入れた。

「死者しか見えぬ無能、と申したな」

フェルディクは、生き残った千人を振り返る。

「この者は、死者になるはずの者を生者へ戻した。明日からではない。今この瞬間より、我が軍の未来を鑑定せよ」