星形の製氷皿

鳥越冬慈と、父の再婚相手だった康代は、古い冷凍庫の霜を落としていた。

父が亡くなって三年。康代は一人で家に残ったが、来月から妹の近くへ移る。冬慈は家を売る手続きだけを引き受け、荷物の相談には乗らなかった。

冷凍庫の扉は、白い霜で半分しか開かない。

「電源を切って待てばいい」と冬慈が言う。

「夕方、業者が来る」

「何で前日にやらない」

「来ると思ってなかったから」

康代はそう言い、新聞紙を床へ敷いた。冬慈はへらで霜を削る。金属を使えば配管を傷つけるから、プラスチックのカードを二枚重ねた。

大きな氷の塊が剥がれ、流しへ落ちた。冬慈はタオルで床の水を吸い、康代は濡れたタオルを次々絞った。父が台所で倒れた夜も、二人は同じ場所で水を拭いたが、そのときは互いの顔を見なかった。奥から星形の製氷皿が出てきた。冬慈が小学生のころ、ジュースを凍らせたものだ。

「捨てたと思ってた」

「お父さんが取っておけって」

「父さん、使わないだろ」

「帰ってきたとき使うかもしれないって」

冬慈は黙って次の霜へカードを差した。父が生きている間、帰省は二度だけだった。康代を母と呼べず、父が新しい暮らしを選んだ証拠のように避けていた。

冷凍庫が空になると、康代は残った食材を並べた。冷凍うどん三玉、餃子一袋、父が釣った魚の切り身一つ。

「魚、まだ食べてないの」

「最後になるから」

「三年物だぞ」

「分かってる」

冬慈は切り身を捨てず、氷ごと袋へ戻した。代わりに餃子を焼き、二人で台所に立って食べた。焦げたものを康代が自分の皿へ取るので、冬慈は半分交換した。

業者が冷凍庫を運び出すと、台所に白い四角い跡が残った。

冬慈は星形の製氷皿を洗い、新居へ運ぶ箱へ入れた。箱の側面に〈台所・先に開ける〉と書く。

「それ、いらない」と康代が言った。

「俺が使う」

「なら持って帰って」

「新しい冷凍庫で一回凍らせてから」

康代は何も言わず、箱の蓋を閉じなかった。

冬慈は次の週末の日付を箱へ書き足した。その日までに新居へ来るという印だった。