時計仕掛けの採掘権
ローデンの鉱山は、一時間に一度だけ動く。
谷の古時計塔が鐘を打つと、地下の歯車が四分間回り、金属鉱を砕く。機械鳥が欠片を拾い、真鍮・鉄・銀に分け、それぞれの箱へ落とす。鐘が止めば採掘も止まる。急がせても収量は増えないし、ローデンが見張る必要もない。
彼はその仕組みが気に入って、採掘権ごと時計塔を買った。
鐘と鐘の間、機械は一切働かない。ローデンも同じように休んでよい。止まる時間まで設計されている機械は、休止を故障と呼ぶ工場より賢かった。
以前は王都機巧工場の時間管理官だった。白い制服の胸には懐中時計の鎖が擦れた二本の溝があり、袖は出勤札を押し続けて薄くなっている。一分の遅刻を叱る役目なのに、自分の退勤時刻は存在しなかった。辞職後も勤務端末には未読の緊急延長申請が山になっている。
正午の鐘が鳴る。
四分だけ地面が低く響き、やがて静まった。壁の会計時計が数字を示す。
《本日の分別鉱、売却完了。生活維持費、三十日分を確保》
ローデンは針を見てから、見ないことにした。今日はパン生地を発酵させているが、何分待つか決めていない。膨らむまで待てばいい。
勤務端末がけたたましく鳴り、元工場監督ベネドの顔が映った。
『中央動力輪が停止した。時間同期を直せるのは君だけだ。十三時までに来い』
「行きません」
『一時間で済む』
「工場で聞いた“一時間”は、いつも夜明けまで続きました」
『今回は本当だ。特別に復職手当も出す』
「時計塔の収入で、パンは買えます」
『それだけで満足なのか。出世も名誉もないぞ』
ローデンは柔らかな生地へ指を沈めた。ゆっくり戻る。
「満足です。自分の一時間を、自分で使えますから」
端末の時刻同期を解除すると、画面から工場の時計が消えた。ローデンは家中の時計も止め、窓を開ける。塔の鐘だけは次の時刻に鳴るだろうが、聞き流してよい。
生地を丸め、窯へ入れる。
焼き上がりを知らせる時計は使わなかった。香りが部屋いっぱいになるまで、長椅子で目を閉じて待った。