最後の一音
残り〇・二秒で、砂原誠は「B」と答えた。
三つの透明な個室に判定灯が走る。
湊川鈴はB。堂前玄はA。誠がBへ加わり、二対一になった。
《多数回答、B。砂原誠、湊川鈴を解放。堂前玄を処刑》
玄が隔壁を殴る。「後出しだ! 投票は同時にするものだろう!」
壁の規則は一文だけだった。
《十秒以内にAかBを一度だけ口頭で答え、同じ答えをした人数が多い側だけ生存する》
同時に答えろとは書いていない。
回答は一度だけ。つまり、先に声を出した者は変更できず、最後まで黙った者だけが二人の答えを見て選べる。
透明個室は防音ではなく、互いの声をはっきり通す設計だった。主催者は疑いを煽るためそうしたのだろうが、誠には先行回答を確定させる情報網になった。
開始前、誠は鈴に「Bを選ぶ」と約束し、玄には「Aへ行く」と囁いた。互いを信用していない二人は、自分だけが誠と組んだと思い、開始直後に答えを固定した。
「A!」
玄が〇・九秒で叫んだ。
「B!」
鈴が一・一秒で続いた。
その瞬間、誠の生存は確定した。どちらへ入っても二対一になる。残る問題は、誰を連れて出るかだけだった。黙っている者は票を持たないのではない。最後まで両方の票を持っている。
玄が唾を飛ばす。「お前は鈴を選んだ。情に負けたんだ」
誠は首を振る。
前の待機室で、水は一本しかなかった。玄は半分を床へ捨て、「誰にも渡さない」と笑った。鈴は自分の一口を、意識の薄い誠へ残した。
「情じゃない。次の部屋で背中を預けられる方を選んだ」
鈴の首輪が外れる。彼女は安堵より先に、誠へ疑いの目を向けた。
「最初から私を助けるつもりだった?」
「君が先にAと言えば、Aにした」
鈴は一瞬むっとし、それから小さく笑った。甘い信頼ではなく、互いに計算できる者同士の笑みだった。
玄の個室に赤い霧が満ち始める。彼は最後まで、誠が答えを保留できた理由を認めなかった。
誠は最後に壁の文を指した。
「多数派を読む必要はない。最後に答えられるなら、自分が多数派を完成させられる」