最後の攻撃を返す鏡
天雷王ザルクの雷槍が落ちる直前、星見コヨミはひび割れた手鏡を掲げた。
《返礼鏡》
耐久値:1
破壊時、鏡が最後に受けた攻撃一つを、攻撃者へ同じ結果で返します。
「そんな玩具では防げない!」
雷槍は百万ダメージ。鏡の防御力はゼロ。コヨミも鏡も一撃で消える。
ザルクはそれを知り、笑って槍を放つ。
コヨミは鏡を自分の前ではなく、地面に倒れた敵兵の胸へ置いた。
雷が鏡を砕く。兵士は焼かれず、鏡だけが最後の攻撃を受けたと判定される。
《返礼処理》
同じ雷槍がザルクの頭上へ落ちた。
天雷王は雷属性を吸収するはずだった。だが説明には《同じダメージ》ではなく《同じ結果》とある。鏡が受けた結果は《耐久値ゼロによる破壊》。
ザルクの装備耐久値が一斉にゼロになり、王冠も雷鎧も砕ける。
中から現れたのは、細い少年NPCだった。王冠に攻撃技能を強制されていたらしい。
攻略隊がとどめを刺そうとする。コヨミは割れた鏡の柄を投げ、剣を逸らした。
「ボス装備は壊れた。本人まで壊す必要はない」
少年は自分の手を見つめる。雷を撃てない代わりに、初めて敵性枠も消えていた。
返礼鏡は消滅したが、最後の映像として少年の顔を一枚だけ残した。攻撃者ではなく、攻撃をさせられていた者の顔だ。
《返礼鏡を破壊》
《返却結果:耐久値ゼロ》
少年はザルクという王名を外し、本来の名を思い出すまで仮登録のまま保護された。
返礼鏡の破片には雷槍の威力値ではなく、《受けた結果:破壊》だけが刻まれている。攻略隊は百万ダメージを反射した英雄譚へ書き換えようとしたが、コヨミは訂正した。
鏡は強い攻撃を強く返したのではない。装備一つが壊れたという小さな結果を、王を作っていた全装備へ同じように返したのだ。
数字より、何が起きたかを読む戦いだった。
少年が自分で選んだ最初の装備は、耐久値のない布服だった。もう壊れることで役割を終える王冠は要らなかった。
《天雷王討伐を取り消します――返されたのは百万ダメージではなく、王を王として成立させていた装備の破壊でした》