最終便に載らない箱
島へ渡る貨物船の出航十五分前、波照間理央は港の倉庫で小さな発泡箱を見つけた。島の診療所へ送るインスリンで、送り主は朝から締切便に間に合うよう持ち込んでいた。
ところが積荷一覧に箱がない。倉庫員は「明日の便へ回す」と言った。船は日用品や建材をまとめた混載で、一覧にない荷物を勝手に載せられない。理央は箱を抱えて走らず、ラベルを見直した。
送り状の上に、別会社の受付シールが重なっている。バーコードは本土側の中継倉庫を示し、島名が読み取られていなかった。荷物は港まで来ているのに、システム上はこれから本土へ戻ることになっている。
「手書きで足せばいいだろう」
船員が急かした。
理央は荷受け担当を呼んだ。医薬品は受け取る人と保管場所まで決まらなければ、船に載せても港で放置される。診療所へ電話すると、看護師が島側の桟橋で待てると答えた。理央は受付シールを剥がさず、誤った経路が分かる状態で訂正票を作り、船の責任者と双方で箱番号を確認した。
出航三分前、箱は冷蔵区画へ積まれた。理央は船が岸を離れるまで、荷受け担当に診療所の連絡先を渡した。載せることより、降ろしたあとをつなぐほうが難しい。
倉庫員がため息をつく。
「一本のシールで、島が一日待つところだった」
理央は受付台に残った荷物を見た。牛乳、機械部品、子どもの誕生日プレゼント。どれも同じ箱に見えるが、待てる一日は違う。
理央は積み込み後の冷蔵区画を写真に撮り、診療所へ送った。看護師から「桟橋で受け取る」と返信が来て、初めて配送はつながった。船に載った事実だけでは、医薬品は届いたことにならない。海の向こうに、名前を呼んで箱を受ける人が必要だった。
船の汽笛が鳴った直後、翌朝便の荷物がトラックで到着した。理央は最終便の一覧を閉じ、新しい荷受け表を開いた。港の一日は、船が出たときではなく、次の船へ載せる名前を書いたときに始まる。
海面には、船尾の白い線だけが長く残った。