月影井戸の鍵

月影井戸は、月が昇る二刻だけ水を満たした。

その短い時間に扉を開ける鍵は、染物、醸造、宿屋の三組合が一本ずつ持つ。三本そろわなければ錠は開かない。

組合に入れない貧民街は、余った水を高値で買うしかなかった。

鍵師セシアの弟が熱を出した夜、宿屋組合は鍵を出さなかった。

「先月の会費が足りない」

セシアは空の壺を抱え、閉じた扉の隙間から月光だけが差すのを見た。

翌朝、彼女は組合長たちを広場へ呼び、新しい錠前の図面を広げた。

「三本すべてではなく、五本のうち二本で開く錠にします」

鍵の持ち主は組合から一人ずつ、住民区から二人。持ち回りは七日。誰が持つかを井戸前に掲示する。二人が拒めば、残る三人で開けられる。

維持費は、仕事用の大樽一つにつき銅貨一枚。家庭の壺二つまでは無料。収入と修繕費は、扉に吊るす帳面へ記す。

「貧民に鍵を渡せば盗む」

染物組合長が言った。

セシアは古い錠を机へ置いた。

「今まで水を盗んでいたのは、開けない権利を売った側です」

図面だけでは錠はできない。

セシアは作業賃を明記し、鉄、炭、歯車に必要な額を並べた。寄付を求めなかった。

それでも鍛冶師は営業時間後の炉を貸し、醸造職人は冷却用の水を一日我慢した。貧民街の老婆は、鍵札を掛ける布紐を五色に染めた。

皆、自分が鍵を持たない週にも井戸が開く仕組みだから手を貸した。

完成した夜、五人の持ち主が井戸前に集まった。

最初の当番は宿屋組合長と、貧民街の靴直しだった。

二本の鍵が同時に回る。

かちり。

扉の向こうで、月光を溶かしたような水が石槽へ湧き上がった。

宿屋組合長が大樽を前へ出しかける。

だが掲示板の順番は、病人のいる家が先だ。

彼は弟の壺を持つセシアへ道を譲った。

汲み終えたあと、五本の鍵はそれぞれ五色の紐で首から下げられた。

形は同じで、一本だけでは何も支配できない。

井戸の扉には、新しい金属札が月を反した。

――鍵は、水を閉じ込めるためではない。

――誰か一人に、閉じ込めさせないためにある。