月曜を越す卵

月曜日が消える食堂では、日曜の閉店後に出汁を十三回かき混ぜる。十二回なら前の店主の味、十四回なら次の店主の味になる。十三回だけが今の店主の味だ。卵は鍋の横へ一つ置き、火曜の朝まで割ってはいけない。

鰍沢晴継は、父の店を継いで二年になる。

客は火曜になるたび「親父さんの味に戻った」と言った。晴継は十三回数えている。けれど、月曜を越した出汁には父の甘さが混じる。死んだ店主の舌は、後継者より長く残るものだと常連は笑った。

晴継は味を変えたかった。煮干しを減らし、鶏油を足し、若い客向けの丼を出す。水曜から日曜までは評判がいい。それでも火曜だけ、店は父の食堂へ戻った。

恋人の弥都は、新しい店を別の場所で始めようと言った。

「ここにいる限り、月曜がお父さんを仕込むよ」

晴継は頷けなかった。父と最後に交わした言葉は「お前の味は薄い」だった。それを覆すまでは出ていけない。

ある日曜、晴継は十二回でお玉を止めた。前の店主の味を、わざと完全に出すためだ。

火曜の朝、鍋の蓋を開けると、湯気の向こうに父の匂いがした。砂糖を多く入れた卵焼き、煙草、古い整髪料。味見すると、懐かしさより先に塩辛さが来た。

「こんな味だったか」

開店すると、常連たちは黙って食べた。誰も「親父さんの味」と言わない。普段なら汁まで飲む配送員が半分残し、父の写真へ申し訳なさそうに頭を下げた。晴継は怒る代わりに、自分も客用の椅子へ座って一杯食べた。最後に最古参の客が、水を飲んで言った。

「親父さん、晩年は味覚が鈍ってたからな。お前が直してたんだろ」

晴継は初めて知った。父の味だと思っていたものの半分は、自分が十三回目に足した薄い出汁だった。

その夜、弥都に電話し、店を移す話をした。現在の店は週に六日だけ父へ貸し、自分たちは月曜のない町を出る。

閉店後、火曜まで割れなかった卵を手に取った。殻には小さく十二と書かれている。割ると白身は透明で、黄身だけが青かった。

青い黄身の中央に、父が使っていた真鍮のお玉が、豆粒ほどの大きさでまっすぐ立っていた。